超大型空母運用のため現有装備を切り売りするとは、苦しい英国の財務状況がうかがえる話ですね。やはり国防の原点は強い経済力ですね。しかし、超大型空母二隻しかも搭載機のめどがつかないまま建造してしまったというのが誤った決定だったのではないでしょうか。EU離脱でも英国経済は生き残るでしょうが景気回復に長い時間がかかるでしょうね。
Brazil Is Reportedly Buying the Royal Navy's Only Helicopter Carrier On the Cheap
ブラジルが英海軍唯一のヘリコプター空母を安価に購入か
Strapped for funds, the UK will let the ship go for less than a third of its original cost despite an extensive refit.
資金難の英国は大幅改修した同艦を調達価格の三分の一で手放す
英国がヘリコプター空母HMSオーシャンを建造費用の三分の一未満でブラジルに売却する最終段階に入ったとの報道が出た。ブラジル海軍は大きな成果を獲得し、英海軍にはHMSクイーン・エリザベスの就役まで空母不在となる。
2018年1月2日にU.K. Defence Journalがブラジル国防相ラウル・ユングマン Raul Jungmann が同艦購入を2017年末に確認したと報じた。購入価格は115百万ドルとあるが、改修費用もここに含まれるのか不明でブラジルが一括払いにするかもわからない。英海軍は2018年中に同艦を退役させると見られる。オーシャン売却の噂は2017年3月から流れていた。
ブラジル海軍司令官エヂュアルド・レアル・フェレイラ大将Admiral Eduardo Leal Ferreiraはかねてから提示価格を「妥当」と見ていたとの現地報道がある。ブラジルは引き渡し前に英国内で乗員訓練を行いたいとの提案をしており、まず海軍士官四名が英国に1月末に到着するといわれる。
ブラジルが同艦をどう活用するか全く読めない。2017年2月に唯一の通常型空母サンパウロ(旧仏海軍フォッシュ)を退役させていた。
OTTAKY VIA WIKIMEDIA
HMSオーシャンはロンドン・グリニッチで2012年夏季五輪を支援した。
オーシャンは固定翼機は運用できない。ロベルト・ロペスによればより高性能空母の取得をめざすブラジル海軍は同艦にサンパウロ以外の艦名を考えているようだ。かわりにミナス・ジェライスの艦名をつけそうだ。先代は第二次大戦時の英コロッサス級軽空母で英国から1956年導入し、サンパウロが編入された2001年まで供用された。
USN
空母サンパウロがUSSロナルド・レーガンと2004年の共同訓練時に航行した。
固定翼機こそ運用しないもののオーシャンはブラジルに貴重な能力を実現する。ブラジル海軍はシュペール・クーガー、シュペール・プーマの両輸送ヘリコプターを運用し、前者は軽攻撃任務や対艦攻撃も可能だ。またスーパーリンクスやシーホーク対潜ヘリコプターも同艦から運用できる。これにより対潜あるいは制海任務にも投入しながら、自然災害後の人道援助災害救難作戦にも使える。
小型舟艇を搭載し人員車両の上陸作戦も可能だ。またラテンアメリカ・カリブ海全域での救難作戦やさらに遠隔地での運用も視野に入る。2018年時点でブラジルは第二次大戦後50回超も平和維持活動に参加している。
オーシャンは英海軍で各種任務をこなす実力を発揮しており、直近ではカリブでハリケーン被害にあった英領の救援にかけつけた。
有事平時問わず幅広い活躍ができるヘリコプター空母兼揚陸強襲艦の需要は世界で広まっており、兵力投射能力以外に遠隔地での影響力行使に有益と評価されている。目に見える効果以外に国力の象徴ともなり、実際にオーシャンは現時点で英海軍旗艦でもある。
オーシャンの就役開始は1993年だが船体は商船構造のため通常の艦船の耐久性には欠け、ブラジル海軍編入前に大規模補修が必要だ。ただ英国は2013年から2014年にかけ90百万ドルで同艦を改修したばかりだ。
建造費は200百万ドル未満(現在の貨幣価値で390百万ドル)だったのでブラジルは当初価格の三分の一未満で同艦を入手する。フェレイラ提督の下した「妥当」との評価は英国の気前の良さの表現に他ならない。
U.K. Defence JournalおよびJane'sによればブラジル海軍はファランクス近接防衛兵装(CIWS)は付けずにオーシャンを購入したい意向だといわれるが、その他新装備を付加するなど改装費用も売却価格に含むか不明と前出の通りだ。
ブラジルは退役サンパウロからシムバッド-RC対空ミサイル装備、電子装備他を取り外すのではないか。このうちシムバッド-RCはミストラル赤外線ホーミングミサイル二発を発射するがCIWSと同様の性能はないので、ブラジルは防御用に追加装備の投資が必要になる。
いずれにせよオーシャンがなくなれば英海軍への影響は大きく、HMSクイーンエリザベスの戦力化まで空母作戦が不可能となる。この状態は2021年まで続くと英国は見ており、F-35B導入も遅れ気味だ。そのため英国が新型空母を初出動させる際には米海兵隊所属のF-35Bを搭載するはずだ。
英国防省は英国所属のF-35Bが同艦に搭載され作戦能力をフルに発揮するのは2023年以降と見ており、姉妹艦HMSプリンスオブウェールズはその時点でまだ供用開始していない。大型空母に固定翼機がないままだと防空や攻撃能力が大きく制約されたままだ。
他方で母運用の予算と人員を確保するため大型揚陸艦二隻HMSアルビオン、HMSブルワークの退役も検討に入っており、水上艦艇数は減る一方だ。2017年12月時点で英海軍駆逐艦、フリゲートは一隻除き全艦が基地に停泊したままだった。
そのため緊急事態や自然災害が発生してもHMSアルビオン、HMSブルワークが不在となれば英海軍は補助艦艇のベイ級揚陸艦しか稼働可能な艦がなくなり、小型艦のためオーシャンより運用能力は相当低下する。
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ベイ級のRFAカーディガンペイが英国の唯一の揚陸艦となる。
英国の経済状況がいつ好転するか不明だ。英政府は欧州連合離脱に先立ち厳しい予算削減に直面しており、経済規模の縮小の中で首脳部は新規に貿易協定を締結すべく苦労している。その中で王室用ヨットの新規調達予算を宝くじ販売で確保する話があるが、まだ手当てがつかない。
オーシャン売却の唯一良い結果はCIWS他を防御力が低すぎるクイーンエリザベスに活用することだ。オーシャンは排水量22千トンでCIWS3基、30mm機関砲4門で小舟艇を撃退し近接脅威に備える。新型大型空母はこの三倍もの長さがあるが今のところ自艦防御装備はこれと同じ数しか搭載していない。
明らかなのはブラジルが破格値で同艦を入手すること、英海軍が空母作戦能力を再建するのはまだ先であることだ。■
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