あなたはシャーロック・ホームズやホーンブロワー提督がお好きですか。そうでなければ今回の記事をお読みにならない方がいいでしょう。読んでも理解できない向きはコメントをお寄せにならないようお願いします。英国人が同じ記事を書いたらもっとおもしろくなるのでしょうかね。
The Story Of The MiG-31 “Firefox”: All You Need To Know About The Most Awesome (Fictional) Advanced High-Speed Interceptor Ever
MiG-31「ファイヤーフォックス」の物語:世界最高峰の(架空の)高速迎撃機のすべて
Dec 01 2017 - 0 Comments
- MiG-31について誤った情報が流布しているようなので訂正したい。
- クレイグ・トーマスが1977年に発表した小説「ファイヤーフォックス」はクリント・イーストウッド監督主演でテクノスリラーアクションとして映画化され、1982年に公開された。
- 航空好きなら一度は見たことがあるのではないか。
- 映画ではソ連のMiG-31(МиГ-31)を盗むプロットを中心にNATO名「ファイヤーフォックス」のステルス迎撃機はマッハ6飛行可能としていた。
- 機体外形は小説と映画で大きく異なる。小説版はMiG-25フォックスバットに似ており、これはその後本当のMiG-31フォックスハウンドで現実になった。映画版は当時噂のあった「ステルス戦闘機」のイメージに影響を受け未来的デザインになっている。
- 物語全体は実現性とは無縁だったが興味深いのはMiG-31の想定性能だ。(小説執筆時、映画化の時点で不可能だった内容がその後に実現している)敵レーダーから探知されず極超音速飛行するファイヤーフォックスではパイロットの脳波の思考制御で兵装運用していた。ただしロシア語による思考にのみ反応するのだった。機体にはカメラ多数が装備されパイロットは後方の様子も把握できた。
- MiG-31は試作機が二機製造された。一号機はミッチェル・ガント少佐(扮クリント・イーストウッド)がソ連から盗み出し追跡を振り切る。北極海の氷上に着陸し、潜水艦から補給を受けた。二号機が盗まれたファイヤーフォックスを追跡して接近したがドッグファイトでガント少佐が勝利した。
The MiG-31s involved in the dogfight. (Credit: Warner Bros)
- 映画版の機体をデザインしたカート・ベスウィックが自らファイヤーフォックスの詳細情報サイトを開設している。カートは技術諸元の「白書」もイラストにつけて公開しているが、「すべて映画からあるいは自分で作った情報なので真剣に取りすぎないでほしい。この形状では明らかに極超音速は無理であくまでも映画の世界」と伝えてきた。
- 白書から興味を惹かれる部分を抜き出し解説してみた。
開発の背景
- MiG-31ファイヤーフォックスの根本目的は西側が開発中のすべての機材を迎撃可能な戦闘機開発にあった。想定したのはSR-71ブラックバード、U-2B、TR-1、D-21無人機だった。冷戦は最高潮で、「相手を正直にふるまわせるため」米国はソ連上空でスパイ飛行していた。マッハ3.5のロッキードD-21無人機を「母機」SR-71から発射することがソ連の現実の悩みだった。米側は高度100千フィートから同無人機の運用に成功しており、ミコヤン-グレヴィッチはこれを標的に設定した。MiG-25フォックスバットの知見が使われ最高水準の機体が生まれた。ファイヤーフォックスは航空技術の最高峰であり、米国はこのことを認識していた。
- MiG-31予算は増大の一途で試作型2機以外の製造は期待薄となった。チタン加工法だけで当初の予算想定を超過する規模だったが関係者は構わず進めた。なによりも米国による上空飛行を許さないとの決意が強かった。ファイヤーフォックスは究極の高速高高度飛行迎撃機として設計されたのだ。
エンジン
- ファイヤーフォックスのエンジンはツマンスキ Tumansky RJ-15BD-600高バイパス比アフターバーナー付きターボジェット双発で推力は各50千ポンドだった。これはMiG-25フォックスバットで開発したエンジンを大幅に改良したものでSR-71ブラックバードの P&W J58(32,000lb)を上回った。
- エンジンには六基のソユーズ・コマノフ固体燃料ロケットブースターも付き、主エンジンを助けて15,900ポンドの追加推力を生んだ。重量満載時の離陸を補助したほか、高速加速効果も生んだ。テストパイロットがエンジンのフレームアウトが発生する高高度で作動させたこともあった。試作型一号機は131,079フィートまで上昇し、以前の世界記録Ye-266Mの123,492 ft.を更新した。
- コンプレッサーのブレイドはチタン製でロシア航空機産業で初の試みだった。燃料は冷却後にエンジンに供給され機体冷却にも役立てた。この技術についてはロシア情報部が入手したSR-71のシステムが参考になった。
- RJ-15BD-600は驚異の推力重量比を実現し、高高度でも空気取り入れ効率を維持してマッハ6を実現した。ただし燃料消費が高くなるため最高速度の長時間維持は不可能だった。巡航速度はマッハ3.8から4.8の間で実用高度は 95,000フィートから105,000フィートの間だった。
The Firefox at the rendezvous with a submarine in the arctic (Warner Bros).
機体
- 機体は大部分がチタンとSS-118ステンレススチール・ニッケル合金でフォックスバット後期型と同様だった。MiG-31はチタンを大幅に取り入れたソ連初の機体で、1970年代中頃までにソ連の製造技術はチタン工法を習熟していた。ただし、レーダー吸収剤の追加により機体表面の高温化が問題となった
- この解決策の一つとして機体のアスペクト比と前後縁は切り詰められロッキードF-104スターファイターと酷似した。機首とエンジンナセルは滑らかな平面とし空気摩擦を最小にしながら抗力を減らした。リベットは表面を滑らかにされ、機体表面に突出部はなく、センサー等は機体内部に搭載された。機体表面の高温化に対応し主翼内に拡張可能な結合構造が採用された。兵装搭載はすべて内部とし、ミサイルは引き込み式発射装置を左右に配置した。熱対策が各種試されたが、結局巨大ヒートシンクで解決し、MiG-25と方向が違っていた。
- 機体に「ステルス」特性もあったが、高速と高高度飛行を前面に立ててどちらを優先すべきかで議論の種となった。ステルス性には三段の対策がなされた。まず機体構造は角ばりレーダー波反射をねらった。さらに表面にレーダー吸収剤(RAM)が施され当時の米国の技術と同じだった。次にMiGには電子対抗装置(ECM)で敵早期警戒をジャミングできた。ただし、ツマンスキエンジンの冷却だけはどうしようもなく熱追尾ミサイルの格好の標的となる点は同機最大の弱点といわれた。
エイビオニクス
- ファイヤーフォックスは思考制御による兵装運用を初めて効果的に実施した機体だった。機構は簡易かつ地味な構造で、ヘルメットを中央コンピューターに光ファイバーで接続していた。パイロットが兵器選択を考えると(ロシア語で)、その通りにミサイルを発射する仕組みで、EEGフィードバックと呼ばれた。操縦は思考とは別で、兵装運用だけに応用した。当時はフライバイワイヤは新技術とみなされていたが、思考制御は革命的だった。ミコヤン-グレヴィッチは合成開口レーダーも開発し偵察ミッションにも柔軟に使われた。
The MiG-31 Firefox had a range of 3,000 miles. (Warner Bros).
ファイヤーフォックスのその後
- クレイグ・トーマスの小説版のファイヤーフォックスのその後の経緯とは異なる。あれだけ苦労して盗み出した機体が(次作「ファイヤーフォックスダウン」で)墜落してしまうとはあまりにも荒唐無稽なためだ。代わりに判明している事実に従ってその後の経緯を伝える。映画では実寸大のファイヤーフォックスのモックアップがエドワーズ空軍基地周辺で使った。そこで同機の「経緯」を以下の通りだ。「ソ連から盗んだ機体を米軍幹部はどうするだろうか」と考えてみた。まず機体は映画の最後でアラスカに向かい飛行したので北部カリフォーニアに秘密基地があると考えるとビールAFBが設備が整い立地も遠隔地だ。(実際に同基地でSR-71やTR-1が運用されていた) 同基地で初期点検と研究がなされただろう。その後、グルームレイクに移動し、ロシア製軍事装備を運用する「レッド・ハット」飛行隊に加わったはずだ。
- 機体は大部分が分解されリバースエンジニアリングされたはずだ。最終的にエドワーズAFBに併設したドライデンフライトリサーチセンターに移動し、高速飛行テストと合金技術の研究用に使われその生涯を終えたはずだ。思考制御方式が関心を呼んだことは間違いない。そこからの可能性は無限で、おそらくF-22ラプターも今とは大きく異なる方向に進んでいただろう。
結論
- ミコヤン-グレヴィッチ設計局はロシア軍用機の特徴である「荒っぽいやり方」を使い西側の追随を許さない航空機を一貫して実現してきた。同設計局は当時可能な選択肢で多様な方法を試した。西側は同機が開発段階にある段階からこの事を察し、完成した同機を盗み出すことに成功し、あと一機のみ残るMiG-31試作型の破壊にも成功した。
- 両機を喪失したため支出済み予算はムダとなり、主要技術陣も他界したため、ミコヤン-グレビッチはファイヤーフォックスの再起を断念した。このため世界最強かつ最高の技術を盛り込んだ機体は二度とこの世にあらわれなかった。以上がファイヤーフォックスの語られることのない側面だ。同機に関する全記録は製造装置含め同機が盗み出された直後に廃棄されており、ロシア航空関係の文献では同機に関する言及は皆無だ。ロシア高官にとってここまでの性能がありながらばつの悪い終わり方になった同機の存在は都合の悪い話になのだろう。■
https://theaviationist.com/2017/12/01/the-story-of-the-mig-31-firefox-all-you-need-to-know-about-the-most-awesome-fictional-advanced-high-speed-interceptor-ever/#5RfQqZwgL5D1TtSg.99 で詳細を読む
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