保存中の退役空母再就役の話がありましたが、戦艦はどうでしょう。米国には戦艦の最終進化形アイオワ級四隻が残っています。ホームズ教授がウィスコンシン勤務だったとは知りませんでした。記事の出稿が前後しましたが、文末の現代の艦船の脆弱性のくだりはフィッツジェラルド事件であらわになりましたね。
Why America's Battleships Will Never Make a Comeback
米戦艦の現役復帰が不可能な理由
June 17, 2017
- 戦艦には神秘的な要素がある。ワシントン内外で米海軍増強の話題が出ると必ずアイオワ級巨大戦艦の現役復帰を強く主張する向きが現れるのは毎度お約束だ。第二次大戦時の戦艦を呼び戻すのは突飛な話題ではない。1914年建造のUSSテキサスに超兵器を搭載しソ連を吹っ飛ばそうというのではない。日本帝国海軍のスーパー戦艦大和を引き上げ宇宙空間で使おうというのでもなく、宇宙人の侵略からUSSミズーリでハワイ諸島を守るものでもない。
- 第二次大戦時に日本との一騎打ちを想定して建造された戦艦は朝鮮戦争、ベトナム戦争、冷戦時に現役復帰している。最後の作戦行動は1988年だ。アイオワ級は朝鮮戦争後ほぼ30年間モスボール保存されていた。(ベトナム戦争時に短期間復帰したUSSニュージャージー除く)冷戦後もモスボール状態だ。事例では戦艦の復帰は可能と示されている。ただし現役復帰させてもコスト、労力、人的資源の投入に見合う効果があるか疑問だ。
- 数字に騙されてはいけない。レーガン時代の海軍大増強で戦艦四隻の現役復帰に1988年価格で17億ドルかかった。2017年価格にすると一隻8.78億ドルだ。この数字から海軍はアーレイ・バーク級駆逐艦一隻の価格で強烈な砲火力を有する艦二隻を復帰できるとした。バーク級駆逐艦の最新建造単価は19億ドルと議会予算局はまとめている。一隻分の予算で二隻が手に入るのは魅力だ。沿海戦闘艦三隻分の予算で戦艦二隻を復帰できる。沿海戦闘艦は今日の砲艦といった存在だ。いかにもお得な策に聞こえる。
- 数字はもっともらしく見えるが巨大戦艦を低費用で復帰させるのは実際には困難だ。まず各艦はもはや米海軍所属ではなく博物館だ。ニュージャージーとミズーリは1990年代に除籍されれた。アイオワとウィスコンシンはかなりの間「再復帰可能」状態を維持し、理論上は復帰可能だった。だが両艦とも2006年にやはり除籍された。国家緊急事態なら政府は各艦を現役復帰できようが、平時には法的手続きだけで相当の時間と費用が必要になる。
- 次に経年変化の問題がある。戦艦愛好家はアイオワ級は走行距離の少ない旧型車と同じと主張する。一見これも説得力がある。筆者が勤務したUSSウィスコンシンは第二次大戦、朝鮮戦争、砂漠の嵐作戦に投入され総稼働期間はわずか14年だ。米海軍が空母は50年、巡洋艦駆逐艦が40年間供用になる中で戦艦は長期間稼働に耐えるように見える。
- これは正しい見方だ。頑丈な戦艦の艦体は海上の厳しい環境に十分耐える。だが内部はどうか。機械関係の様子を見れば全体がわかる。アイオワ級が連続稼働され定期修理やオーバーホールを受けていたら、数十年間航海していたはずだ。第二次大戦中の空母USSレキシントン(CV-16)は1991年まで供用されアイオワ級と同年に退役している。だが各戦艦はその間にしかるべき営繕を受けていない。そのため各戦艦は25年前の時点でも維持管理が難しかった。もっと古い艦齢の戦艦から部品を取り1930年代1940年代製の老朽部品の代わりを特製していた。
- さらに25年が経過したことで問題は悪化している。海軍が保存艦艇の維持管理を中止して十年以上になる。この課題を克服するには相当の費用がかかる。ヨット仲間のジョークではないが穴の開いたボートにオーナーが大金をつぎ込むようなものだ。戦艦の場合の穴はもっと大きく、納税者のお金を大量に必要とする。米海軍がアイオワ級の復帰工事を安く完了できても運用維持巨額になるだろう。このため各艦は1990年代に閉鎖され、時の経過は無慈悲な状況を一層深刻にしている。
- 次にアイオワ級の巨大な主砲だ。フォルクスワーゲン・ビートルほどの重量の砲弾を20マイル飛ばす海軍砲をどうするか。戦艦の象徴であり、現在の海軍艦艇でこれに匹敵する砲はない。火力がこれだけあれば再就役させ維持する費用が正当化できそうに見える。だが時間経過で砲身は劣化している。16インチ50口径主砲の製造は数十年行われておらず予備部品は廃棄されたか博物館に寄贈済みだ。ここが不足すれば実戦時の使い勝手に制約が生まれる。
- さらに巨砲用の弾薬がどこにあるのか。1950年代の16インチ砲弾と火薬を1980年代、1990年代に消費した。在庫は60年以上前のもので米海軍は廃棄中だ。少量の砲弾、発射火薬を製造するのは防衛産業に魅力のない仕事だろう。USSズムワルトの高性能主砲用の砲弾調達が最近取り消しになったのは価格急騰で一発800千ドルになったためだ。わずか三隻の新型艦で限定発注した場合でこうだ。アイオワ級を再就役しようとすれば同じ苦境に直面するのではないか。
- とどめは16インチ主砲砲塔やM型バブコック&ウィルコックス製ボイラーを扱う技能を持つ人材で、海軍はどこで確保できるのか。こういった装備の取扱い訓練を受けた人員は1991年以降存いない。運用し維持できる技能員は老齢化し腕が錆びついているのだ。海軍が電気推進、ガスタービン、ディーゼルエンジンに向かう中で蒸気を扱える人員は不足気味である。旧型ヘリコプター揚陸ドック艦(LHD)は蒸気動力だったが新型LHDはガスタービンを採用し旧型艦の退役が近づいている。
- 蒸気動力が完全に消えるわけではないがもはや過去の技術で16インチ主砲のような存在だ。戦艦を再就役させれば大量の技能員が必要となるが現実には減少傾向だ。筆者自身は戦艦勤務の経験を持つ最後の世代だが現役を離れ26年たつ筆者を米海軍が徴用し機関や兵装の技能を再度覚えさせる事態は考えにくい。つまり時間がたつとモノと同時に人的資源も再稼働しにくくなり、戦艦再就役で人的側面が致命的な成約になる。
- 戦艦の復帰で艦隊戦力が大きく充実する。単に水上戦闘艦が追加されるだけではない。アルフレッド・セイヤー・マハンは主力艦の定義を大攻撃力を実現しつつ敵攻撃に耐える艦と定義した。今日の水上艦は攻撃力は十分だが、被弾しても残存する能力は軽い装甲では無理な話だ。海軍艦艇の建造技術陣は戦艦の歴史をたどり、設計思想を学び真の意味の主力艦を再発見してもいいのではないか。米海軍はよい結果を得られるはずだ。
- 過去から学ぼう。ただし、戦艦再就役はサイエンスフィクションの世界にとどめておこう。■
James Holmes is Professor of Strategy at the Naval War College and coauthor of Red Star over the Pacific. The views voiced here are his alone.
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。