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歴史残る機体12 ツボレフTu-95ベア




The Tu-95 Bear: The 60-Year-Old Russian Bomber America Still Chases All Over the World

Tu-95ベアは60年にわたりロシアが世界各地で運用する爆撃機

June 11, 2017


  1. 巨大なツボレフTu-95「ベア」ほど特徴のある機体は少ない。四発の同機はロシアが戦略爆撃機や海上哨戒機として供用中で、一角獣のような長い燃料補給管が特徴的でまるで太古の怪物のように見えるが事実第二次大戦直後に現れた機体なのだ。
  2. だが外観に惑わされてはいけない。登場以後60年ほどが経つTu-95は今でも供用中でこれだけのペイロードを有する機体がこれだけ長く長距離を飛行している例は少ない。Tu-95はロシアのB-52と言ってもよいが、ヨーロッパ、アジア、北米の各地で防空体制を試すことが多く、海洋上空の飛行も多い。

冷戦時の核爆撃機
  1. ベアが生まれた背景には第二次大戦後にソ連が米国に対抗して自前の戦略爆撃機部隊の整備を急いだことがある。ソ連は1950年に四発爆撃機で5千マイル飛行させ米国内の目標地点を爆弾12トンで攻撃する構想をまとめた。
  2. 当時のジェットエンジンは大量の燃料を短時間で燃やしていた。そこでアンドレイ・ツポレフ設計局はNK-12ターボプロップエンジン四発に二重反転プロペラの搭載を想定した。
  3. NK-12エンジンにプロペラ二つが取り付けれれ、それぞれ逆回転させてトルクを打ち消しながら高速力を引き出す。二重反転プロペラは効率こそ高いが製造整備は大変で、信じられないほどの騒音を出し、広く普及していない。Tu-95のエンジン音は潜水艦やジェット機から探知されたという。
  4. ただしTu-95のエンジンは効果を発揮している。時速500マイルと世界最速のプロペラ機だ。プロペラは直径18フィートで先端部は音速をわずかに上回る速度で回転する。またベアはプロペラ機ながら後退翼を搭載した数少ない例で高速飛行に寄与している。
  5. Tu-95の燃料搭載量はものすごく大きく、機内燃料だけで9千マイル飛行できる。後期生産型からは特徴的な空中給油用装置がつき、飛行距離はさらに伸びた。冷戦時には一回10時間の飛行につくことが多く、一部の機体ではほぼその倍飛ぶものもあらわれた。
  6. Tu-95の乗員は型式により6名から8名で、パイロット二名、航法士二名を中心に機銃操作やセンサー操作にあたった。当初のベアには23ミリ二門の砲塔が機体下部と尾部についた。敵戦闘機を排除する構想は長距離空対空ミサイル登場で意味がなくなり後期型は尾部を除き機銃を廃止した。(公平のため記すとB-52の尾部機銃で撃墜二例あるいは三例がヴィエトナム戦争時に記録されている)
  7. ベアの当初任務は明確だった。冷戦が本当の戦争になれば、ベア数十機を北極越えで送り込み、核爆弾を米国各地に投下するはずだった。途中多数がミサイルや防空戦闘機の餌食になるのは覚悟のうえで、数機が侵入に成功すればよいとしていた。
  8. これは映画「博士の異常な愛情」が描いた米空軍の戦闘実施構想をまねたものだったが、ソ連には核装備爆撃機を二十四時間空中待機させず、米国とは違っていた。
  9. Tu-95は核兵器実験にも使用された。Tu-95Vが世界最大の核兵器を1961年にセヴェルニ島に50メガトンの「爆弾の帝王」をパラシュートで落下させ地上4キロ地点で爆発したキノコ雲は40マイル先からも目視された。衝撃波でベアは高度を千メートル失ったがパイロットは機体制御を取り戻し帰還させた。乗員は生存の可能性は50パーセントしかないと事前説明を受けていた。

海洋上空の襲撃者として
  1. 1960年代に入るとソ連も戦略爆撃機で核爆弾を米国上空から重力落下させても装備の無駄使いと理解するに至る。これには防空装備の進歩と弾道ミサイルの費用対効果が向上したことがある。以後のTu-95には別の任務想定で開発が進んだ。
  2. 迎撃戦闘機に弱い爆撃機の特性から長距離巡航ミサイルの母機に転用することとした。Tu-95K型は大型Kh-20核巡航ミサイル(NATO名AS-3カンガルー)を搭載した。ミサイルの射程は300キロから600キロで形状は航空機から主翼を取ったように見えた。実はMiG-19の胴体を原型としたせいだった。
  3. もう一つミッションがベアに与えられた。米空母戦闘群の追尾であった。高性能センサーを使っても広大な海洋上で艦船を探知追尾するのは容易ではない。ただし、空母群の位置が判明すれば、陸上から爆撃機多数を向けて攻撃できた。ベアは海上を長時間飛行できるので米艦隊探知に最適と思われた。
  4. Tu-95RT海洋偵察機型が専用に製造された。海面探知レーダーを機体下部につみ、尾部銃座後方にガラス張り観測室も追加した。
  5. 有事の際に敵艦隊追尾は有益だが、同時に米海軍に空爆を受ける脆弱性の危険を心理的に与える意味もあった。米空母から戦闘機がスクランブル発進しベアを追い払うことがよくあった。ベアが米戦闘機と一緒に写る写真多数は冷戦時代の象徴だ。

Tu-95の各型
  1. その他試験実験用のベアもあり、Tu-85LALは原子炉を搭載、Tu-95KはMiG-19戦闘機を搭載し空中発進させる構想だった。
  2. 実際に生産されたその他の形式にTu-95MR写真偵察機、Tu-95K改良型とKM型があり、センサー性能を向上しKh-22ミサイルを発進させた。
  3. ソ連では対潜偵察機型をベアから開発しTu-142が生まれた。背景には新型ポラリス潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)への恐怖があった。Tu-142は洋上探査目標捕捉レーダー「ベルクート」(金鷲)で識別可を図った。また尾部ブームにMAD磁気異常探知機を搭載し、潜水艦探知に使う。Tu-142はストレッチされセンサー類を全部機内に搭載している。
  4. 冷戦中は米潜水艦の性能向上に呼応した改修を受けている。現在供用中のTu-142MZは高性能化したソノブイRGB-16、RGB-26を搭載し、エンジンも強化している。Tu-142が米潜水艦探知に成功する事例が多数あり、長時間にわたり追尾もしている。Tu-142MRでは二機がロシア潜水艦向け通信中継用に製造されている。
  5. ロシア海軍航空隊はTu-142を現在も15機運用中だ。うち一機がシリアで目撃されている。シリア反乱勢力なのか米艦隊なのかわからないが動きを探知しているのだろう。
  6. インド海軍にはTu-142MK-E型が8機あり、1988年から供用中だが、ゆくゆくはP-8Iポセイドンにバトンを渡す。
  7. ベアからロシア初のAWACS、Tu-126も生まれた。Tu-114旅客機は1959年にフルシチョフを乗せモスクワからニューヨークにノンストップ11時間で運んだ。ただし両型とも現在は運航されていない。
  8. Tu-142以外に現在運航中のTu-95はTu-95MS型50機余である。機体はTu-142が原型で巡航ミサイル発射母機としてKh-55(NATO名AS-15)を運用する。近年にさらに改修を受け、巡航ミサイル16発を運用できるようになった。また航法目標捕捉装備も更改された。Kh-55は各種型式があり、核・非核両用で射程は最大3,000キロ、最短300キロだ。
  9. Tu-95MSM型はKh-101を運用でき、核つきKh-102ステルスミサイルも発射できる。これは低高度を飛び、レーダー断面積も減らしている。射程は5,500キロといわれる。
  10. こうした恐ろしいペイロードがあるが、ベアの敵は機体寿命だ。2015年夏には短期ながら飛行停止した。二年で二機で事故があったためだ。
現況
  1. ペアは太平洋大西洋上空を今も飛んでいる。現時点の主要任務は他国付近を遊弋飛行することだ。
  2. Tu-95が英国沿岸付近を飛ぶところを見つかり、カリフォーニア州から50マイル西を飛び、アラスカ防空識別圏内に入り、日本の領空も侵犯している。そこまで接近して飛ぶのは迎撃態勢を挑発するためだ。他国の領空に入ることは普通はない。
  3. 冷戦期はこのパターンの飛行が普通だったが2007年にプーチンが復活させた。理屈の上では監視飛行だが真意はロシアが核兵器運用爆撃機をその気になれば各国の近くまで飛ばせると思い知らせることにある。
  4. 米RC-135スパイ機も中国やロシアの戦闘機を刺激するがRC-135は非武装だ。
  5. 無論、ベアはステルス性とは程遠く、最新の対空兵器を前に生き残ることはできないが、巡航ミサイルを搭載するベアは防空網のはるか手前でミサイル発射すればよい。
  6. 2015年11月にベアは供用開始後59年で初の戦闘を行った。ロシア国防省発表のビデオによれば巡航ミサイルを発射し、シリア反乱勢力の陣地を攻撃している。巡航ミサイルを発射したロシアは自国の軍事力を世界に見せつける意図があったと解釈された。
  7. ロシア軍にはもっと重装備で超音速飛行可能な爆撃機も別途あるが、長年稼働してきたベアは大型巡航ミサイルを搭載し太平洋大西洋で監視の目を光らせる任務に適合している。■
Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
Image: Creative Commons.


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