これもシンクタンクの頭の良い人達によるエッセイですが、核兵器が結局使えない兵器だとしたらなぜ新政権は核兵器近代化を課題としているのか、他国も相変わらず核兵器の保有を続けているのか、議論を呼びそうですね。条件さえ合えば、北朝鮮やイランへの核攻撃は実施可能と見ています。もちろん通常兵器でも恐ろしい威力は可能ですが。
Could America Really Win a "Limited" Nuclear War?
February 18, 2017
- ドナルド・トランプ大統領の就任から三週間だが、批判派は選挙運動中のスローガン「アメリカを再び偉大な国へ」はアメリカ社会を1950年代に引き戻すと指摘している。気づいた向きは少ないだろうが、トランプが目指す時間の逆回転は米国の核兵器にもあてはまる
- 先週ペンタゴン審議会がトランプ政権に「限定核戦争」体制の整備を提言したとCQ Roll Calが伝えている。
- 記事によると「国防科学委員会は大統領に現在の戦力整備方針を変更し低威力兵器多数の整備をめざし『限定使用前提で状況に応じ核兵器を投入する選択肢』を可能とすべき求めた」
- 核兵器の限定投入の裏にある戦略は一見単純に聞こえるが、紛争終了にはエスカレーションが必要となる。
- 理論上では敵通常部隊に低威力核兵器で対応すればこちらが全面核攻撃を真剣に覚悟していると見せてしまう。敵はそのまま地球大熱核戦争に移行したり通常戦を続けるかわりに引き下がるはずとする。
- 軍事用語の「限定原子戦争」が婉曲的に聞こえたらそれは正しい。核を相手に落とせば小規模兵器といえども核攻撃に変わりない。また中国やロシアを相手に「限定核戦争」を行えば、報復が核攻撃になるのは確実だ。
- 現実世界では核兵器を「限定的に」使う構想は危険な幻想だ。ニクソン政権でさえ、ソ連相手の限定核攻撃は「狂人の理論」と称していた。
- だが今回のCQ Roll Call記事では「提言は革命的というより発展形」だという。
- 限定核戦争は新概念ではなく、かなり前からある。
- 米国が原子爆弾を世界で初めて広島・長崎に1945年投下して核のパンドラの箱が開いた。核兵器の開発、製造、貯蔵を各国が始め、より長距離を攻撃できる威力の高い兵器をめざした。
- こうした超兵器は数分で文明を破壊可能で、その結果生まれたのが相互破滅保証の概念で、現在まで続く危っかしい核抑止体制が生まれた。
- だが冷戦初期の核兵器は戦略抑止手段ではなく大規模戦の手段として認識されていた。シャーマン戦車やAK-47銃と同様50年代の核兵器は製造された。
- 核兵器は1990年代までに漸次削減されたものの、米国は今でも欧州に戦術核兵器180発を保持中で、対ロシア戦が発生すればNATO戦闘機が運用する想定だ。
- 実戦に使用されず幸運だったと歴代政権が実施した図上演習結果から判る。限定核戦争は幻想にすぎない。
- 1955年のカートブランシュ演習では戦術核兵器300発以上をドイツ国内で使いソ連侵攻を食い止める想定だった。
- ドイツ国民推定170万人死亡、負傷者350万名の判定と放射能の影響で計算不能な被害が生じた。演習内容が報道機関に漏れると、西ドイツで米軍の核戦略への「広範囲な不安と怒り」が生まれた。
- 「小型」核兵器に戦略的意義が再び与えられるか不明だ。低威力兵器を一発使用しただけで相当の死傷者とともに長期にわたる放射能の影響が発生する。
- CQ Roll Call報道は「低威力核兵器貯蔵量を増やせば敵の反応を招き、核戦争の可能性が増え、...危機状況で核兵器投入の選択肢を米軍が大統領に示せば食指を動かす案に写り、...大統領は全面核戦争を起こさず小型兵器が使えると考えるかもしれない」と伝えていた。
- この想像も幻想だ。今回の提言中の真の問題点は核兵器投入は限定の有無と無関係にエスカレーションを招く点だ。
- レーガン政権は1983年の図上演習で狂人理論の実効性を試した。誇り高き預言者 Proud Prophet のコード名で同演習はNATOがソ連の通常戦力に対抗すべく限定核攻撃をソ連に行う想定だったが、ソ連を演じたチームは引き下がるどころか大量の核反撃を米本土に加え、米国も応酬し演習は終了した。
- 死亡判定は10億人となり、NATOは消滅。レーガン大統領は大きく衝撃を受け、同日の日程は取り消しになった。反応は素早かった。
- 国防総省顧問ポール・ブラッケンによれば「ソ連対抗用の戦略構想案ほとんどが実際の米戦力と無関係ないし実行不可能と判り即座に廃棄された」。
- 数カ月後レーガンは「核戦争で勝利は不可能。絶対に実施してはだめだ」との有名な文句を米国民に伝えている。
- 戦術核兵器に戦略的な優位性が生まれると考える向きもあろう。ヨーロッパに貯蔵中のB61核爆弾180発が証明ではないか。実施主体は米軍通常部隊であり、強力なJASM-ER巡航ミサイルのように全面核戦争へのエスカレーションを招かず投入できるのではないか。
- ダイアン・ファインステイン上院議員の言葉を借りれば「核兵器の役目はひとつだけ。抑止だ。実際の使用を容認できないし、すべきでない。限定核戦争はありえない概念であり、ペンタゴン審議会提言に憂慮せざるを得ない。」
- このゲームは実施済みで、結果は良好でなかった。1950年代同様の核兵器貯蔵は2017年には不要だ。白黒テレビを今さら購入する人は皆無だ。「使用可能な」核兵器も歴史のゴミ箱に捨てよう。■
Geoff Wilson is a Policy Associate at Ploughshares Fund, where he focuses on U.S. nuclear and military strategy. Will Saetren is the author of Ghosts of the Cold War: Rethinking the Need for a New Cruise Missile, and is an alumnus of the Roger L. Hale Fellowship at Ploughshares Fund.
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