新年はトランプ大統領の新思考に注目です。中国については1970年代の思考が継続され、台湾を孤立させた方が都合が良い状況を作ってきましたが、トランプの電話一回で虚構が崩れつつあるわけです。やはりトランプが当選してよかったと思える瞬間でしたが皆さんはどうお感じになったでしょうか。台湾もそうですが、沖縄をめぐる中国の動きにも今年は注目していかなければなりません。米戦略では在日米軍もある程度の被害は避けられない前提ですが、そんな「想定外」の事態は考えたくないというのがこの国の「空気」でしょう。沖縄、台湾さらに日本列島と「空気」ではなく、地政学、パワーポリティクスで見ていくべき時代に来ていますね。なお、日米豪台と国名が出る中で韓国については全く言及がないことに注目すべきではないでしょうか。
Taiwan, Trump, & The Pacific Defense Grid: Towards Deterrence In Depth
AM
トランプ次期大統領が台湾総統と電話会談したことで外交界に波紋が広がっているが、今や歴史のページを進めて21世紀の太平洋抑止力戦略の一部に台湾を組み入れるべき時が来た。
中華人民共和国(PRC)は太平洋進出を公言し、軍事影響力を行使し米国及び同盟各国の権益に真っ向から挑戦する姿勢を示している。台湾から先にも軍事外交戦略を展開し、太平洋での兵力投射を日本列島からさらにオーストラリアまで広げようとしている。
そこで台湾制圧が日本、オーストラリア、太平洋の米軍基地を睨むために重要な要素となっているのは明らかだ。では米国は台湾防衛を黙視したままでいいのか。太平洋戦略の再構築に台湾が果たす重要な位置を無視できるのか。
ニクソン、キッシンジャーがソ連への対抗策として中国の抱き込みを模索した時代から時間は止まったままだ。ソ連は崩壊したが、ロシアはソ連ではない。今日のクレムリンは中国とはレアルポリティクだけを共有する関係だ。このためロシア封じ込めを期待してPRCに媚を売っても得るものはない。ロシア封じ込めは異例の任務になる。21世紀のロシアはプーチンのもと軍事力で露骨に国益を実現することに躊躇していない。また中国も異例な規模の大国であり、ニクソン-キッシンジャーが交渉していた頃の姿から劇的なまでに変貌している。
「PRCとの関係正常化は三段階の共同声明が1972年、1979年、1982年で形成されてきた。各文書でPRCとUSは明確にお互いの相違点を確認し、暫定的な平和実現のため相違点をあえて黙認してきた。暫定という言葉に意味がある」とダニー・ラム(アナリスト)は強調する。
これがカーター政権末期に「一つの中国政策」に変わっていった。カーターは台湾と断交しPRCを唯一の中国合法政権と認定した。だがこの政策は冷戦期に今はないソ連と対抗する中に形成されたものであり、海洋進出するような軍事力を中国が獲得する前の話だ。政策方針の骨董品置き場から抜け出して21世紀の台湾政策を形成すべきときに来た。より広範な封じ込め戦略の一部とするのだ。
徹底的封じ込め政策
米国では運用可能なテクノロジーとあわせ太平洋地区の中核同盟国での政策変更により全く新しい徹底的な封じ込め戦略deterrence in depthが可能となった。日本は防衛体制の拡大に力を入れている。オーストラリアも防衛範囲を広げるべく戦力を整備中だ。米軍は太平洋で広範な作戦展開する体制づくりに入っている。そこで今こそ台湾の役割を太平洋全体の防衛安全保障の観点で再定義すべきときだ。
海兵隊太平洋地区司令官を務めたテリー・ロブリング中将がいみじくも言っている。「徹底的封じ込めという用語が気に入っている。実態をそのまま表しているからだ。徹底的防衛では対応にならないときがある。相手の行動を抑制し変えさせないと域内安定に役立たない。軍事経済両面で必要で国際法の規範に従うことがすべての諸国に求められている」
この考え方は軍事的にどう実現できるのだろうか。米海軍は統合破壊ウェブとして広範囲に分散した艦船、航空機、潜水艦をネットワークで結び、各種センサーと攻撃手段で「単独戦闘はもうありえない」体制を整備している。ドナルド・トランプ次期大統領が示した政治意思があれば台湾も同様な抑止体制の一環に取り組める。
海軍作戦副部長に就任したマイク・マナジール少将と話す機会があり、少将は広範囲な作戦海域で兵力を統合する意義を強調した。空軍、海軍、海兵隊のチームが互角の相手とのハイエンド戦を想定しているのは明らかだ。
米陸軍がここで果たすべき役割は防空ミサイル防衛能力の整備だ。だがそのためには部隊をモジュラー化し、機動性をもたせハイエンド含むあらゆる局面の軍事衝突で有効に機能を発揮できる部隊にすることが必要だ。
台湾が分散防衛体制ならびに徹底的抑止体制の一部に加わることは容易だ。その手始めに同盟国の沿岸警備部隊との共同作戦に組み入れることがある。台湾も米国並びに同盟国に参加しプレゼンス維持の一環になれるはずだ。
台湾海軍・空軍も分散プローチによる統合太平洋防衛戦略に参画できる。PRCが太平洋に軍事力を広げるのに対抗しようとする中で台湾を孤立させ、日米豪の抑止力部隊に加えない場合、北京政府は台湾を簡単に略奪してしまうだろう。トランプ次期大統領による電話会談はPRC封じ込めの新局面でとても大きな印を残したのだ。
両著者が三年前に太平洋戦略を論じた著書を書いた時点で北京は台湾を自らの帝国の遠心力により統御可能と見ていた。台湾解放戦は中国が考える中核的領土権益の一部に組み込まれている。台湾島は清朝が17世紀に統合して以来中国の一部とされてきた。1895年に日本が統治し、第二次大戦後に返還された。戦後の中国内戦で蒋介石は本土から追い出され、台湾に落ち着き、現在の中華民国となった。民主体制を進めた中華民国は強圧的な体制を旨とする中国本土からは睨まれる存在だ。[1]
台湾の意義
新台湾政策は太平洋諸島向けの新しい方向性とともに中国対象の「抑制封じ込め戦略」 “constrainment strategy”の創設でカギとなる。台湾はPRCが太平洋に出入りする際の軍事戦略上の連接点に位置する。台湾、米国、日本、オーストラリアのいずれも西太平洋や南シナ海で航行の自由を制約する中国の動きは認めてはならない。
PRCが台湾を制圧すれば、軍事的に米国や同盟諸国の作戦を妨害してくるだろうし、PLAにより中国沿岸から100マイル範囲で強固かつ有効な情報収集偵察監視拠点のネットワークが形成されればPLAAF攻撃機と軍事衛星は米海軍並びに同盟各国に大きな脅威になる。
台湾が自国防衛体制を強化するのは台湾の正当な権利であり、台湾関係法でも許容されている。「米国は台湾に防衛装備や防衛活動を必要な量なだけ提供し、台湾に十分な自衛能力を維持させることができるものとする」
だがPRCへ台湾が自衛するためには米、日、豪各国と共同しない限り戦略的な意義が生まれない。台湾は自国防衛の実現のみならず太平洋の防衛への貢献策を探っていくべきだ。一つの鍵は台湾が自国のISR体制を拡大し、指揮統制(C2)能力を引き上げることだ。
これは米陸軍が防空砲兵隊(ADA)能力をアジア太平洋で構築するのに呼応する。ADAには太平洋地区全域にTHAADミサイル防衛装備含む防空装備による支援体制を整備する必要があろう。
THAADを離島に防衛装備ネットワークの一環として展開するにはどうしたらよいか。THAADミサイル発射機の総運搬重量は66千ポンドあり、大型CH-53ヘリコプターでは機体内部には30千ポンド、機外吊り下げで36千ポンドしか運搬できない。しかも飛行距離は621カイリしかない。しかしミサイル自体は運搬車両を別にすれば26千ポンドでCH-53が機内搭載できる。
問題はミサイル発射機を起立させ再装填する機構にある。トラック除く発射機は強化コンクリートがあれば航空機で搬入できる。あるいはモジュラー方式の搬入設備でミサイル装填は可能だろう。そうなるとモジュール化がカギになりそうだ。運用要員は海兵隊のMV-22オスプレイで陸軍ADA部隊を送り込めばよく全く困難な話ではない。ただし、THAAD指令所とレーダーは別だ。
陸軍はMV-22やCH-53Kの運用を真剣に検討していない。両機種は海兵隊所属だからだ。だが前例はある。ヴィエトナム戦のさなかに陸軍はヘリコプターで大型火砲を運搬し遠隔地に陣地を構築している。THAADを離島に展開する構想も同じ発想だが利用する技術が異なるだけだ。
そこでADA陣地を島しょ部に展開し、必要に応じ飛行場を利用するとして、航空母艦は島しょ部から200キロ以上離れた地点に留まらせ、陸上陣地に防空体制を取らせる。米側がこうした防御網を構築する中で台湾も一部になる。近い将来に台湾が自前のC4ISR(指揮統制通信コンピュータ情報収集偵察監視)体制を構築すれば、台湾の防空能力を防御ネットワークの火力の一部に投入できる。
台湾関係法は明確にこうした手段を認めている。「米国による武力あるいはその他手段により台湾の安全、社会経済制度並びに国民の安寧を脅かす勢力に対抗できる能力を維持するものとする」
トランプ大統領は根本的に新しい政策のはずみをつけた。歴史はドナルド・トランプが台湾総統からの電話を取ったことを道徳上の義務の表れとし、ロナルド・レーガンがベルリンの壁を撤去せよと求めたのと同等に扱うだろう。■
[1] Laird, Robbin; Timperlake, Edward; Weitz, Richard (2013-10-28). Rebuilding American Military Power in the Pacific: A 21st-Century Strategy: A 21st-Century Strategy (Praeger Security International) (pp. 25-26). ABC-CLIO. Kindle Edition.
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