当然このシリーズ二回目はトランプ候補です。米大統領選挙史上で最も異彩な候補者と言ってもいいでしょう。正統派の共和党には受け入れられず、多数の既成共和党政治家が不支持を公然と表明しているのは異様ですが、世論調査ではまだヒラリー候補と大きな差がついていなのも異様です。どちらが当選しても過去の延長線の大統領にはなりそうもありませんね。その結果が安全保障面でこれからどう現れるかが懸念されます。
Donald J. Trump? Never.
Does he have any real ideas about international security other than those he reads from his teleprompter?
“Donald Trump speaking with supporters at a campaign rally at Veterans Memorial Coliseum at the Arizona State Fairgrounds in Phoenix, Arizona.” Photo by Gage Skidmore, CC BY-SA 2.0.
August 8, 2016
- ドナルド・トランプに大統領選挙で一票を鼻をつまみながら投じても良いと一瞬思える時期が筆者にもあった。
- 今年4月末にNational Interest主催の機会で外交政策の所信表明をし、納得できる点があった。トランプはイスラエルとアラブ諸国の間に平和を実現するとの立場を見せ、他方でNATO同盟諸国にはGDP比2パーセントまで国防支出を増やさせ、アメリカの防衛政策のあるべき姿を従来より詳しく述べた。核兵器近代化を支持し、ミサイル防衛の実効性も高めるとした。また陸軍の増強、艦船数、空軍兵力の拡大も主張した。対ロシア姿勢では以前よりバランスが取れたものの言い方で力を背景にした交渉のみをすると言い切っていた。
- 筆者はずっと共和党員であり本選挙では共和党候補なら誰でも構わず投票してきた人物だが、トランプはこの筆者を完全に納得させられなかった。貿易問題では頑固なまで否定的な態度を示したことに心配させられた。
- とくに貿易問題と同盟関係で無頓着とも言える横柄さに懸念を覚え、これでは日本や韓国が独自に核兵器保有に向かうのではと思わされた。本人自慢の交渉術がイスラエルとパレスチナの間に本当に平和をもたらすか不明だし、逆に双方をもっと対立させるお節介ブリを示すかもしれない。
- 11百万人に登る不法移民を国外追放せよとの提言にも賛同できない。多くはヒスパニックでメキシコ国境に壁を作るとも主張している。不法移民をメキシコ出身の性犯罪者や犯罪者だと決めつけるが実はヒスパニックの大部分はラテンアメリカ各国出身者で通常のアメリカ市民より重大犯罪を犯す実績が低い事実を無視している。さらに同候補者のイスラム教徒への姿勢に大きな懸念を覚えざるを得ない。スンニ派諸国ではすでにアメリカの信頼度が揺らぎ始めており、1930年代に後戻りするような人種差別主義の香りもする。
- とはいえNational Interestでの講演を契機にトランプは一皮むけたと筆者は感じ、過激な発言を慎むよう助言する専門家に耳を傾けるようになったと思った。だが筆者は甘かった。だがその後の本人の行動を見ると他人には耳を傾けていないのは明らかだし、テレプロンプターがなければ大衆扇動家のままではないか。歓声を上げる聴衆の前で見境のない発言をしているだけだ。
- トランプはNATO批判で窮地に陥っている。同盟各国間には本人の評価は低くなり、TPP環太平洋経済連携への反対姿勢もそのままで、太平洋での米主導力を否定する形だ。また日本や韓国が核武装に向かうとしても反対はしないようだ。中国への敵意はそのままだが、ロシアへは手ぬるい姿勢に変化はない。ロシアのウクライナ侵攻を無視しているのか無知なのか、国際安全保障問題ではテレプロンプターが表示する文句以下外は本人の考えは皆無のようだ。
- 上記を理由に筆者はドナルド・トランプには絶対投票しないと決意したのではない。むしろその行動であり、ナルシズムの気難しさであり、あえて楽しんでいるかのような激烈な声明から地上最高位の職務には全く不適格と言わざるをえない。
- 米国生まれのヒスパニック系判事への非難は同判事がトランプ大学案件を担当したためなのか人種差別観が露骨に出ており、米国在住イスラム教徒カン一家を非難した口調には常識的な一線を超えイラク戦で息子を失った家族をなじっていた。また障害を持つ記者を真似てからかうさまはクリントン陣営の選挙CMが取り上げている。
- 筆者は孫多数に恵まれ、5人が十代と十代未満だ。それぞれの両親によりゆくゆくは立派な国民として軍服を身に着けた男女を尊敬し外見や信仰は違っても他者を尊敬するよう教えられている。そんな孫たちに対してドナルド・トランプが大統領になるのは耐えられず、孫達が教えこまれた価値観と反対のお手本を大統領が示すのも耐えられない。候補者はそれぞれ欠点はある。ヒラリー・クリントンも多々欠陥があるがドナルド・トランプはその比ではない。共和党の恥であり、それだけでなく米国とその価値観へも侮辱だ。■
筆者ダヴ・S・ザケイムはCenter for the National Interest副会長で、国防次官補を2001年なら2004年までつとめた以外に国防副次官を1985年から87年まで経験している。
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