スキップしてメイン コンテンツに移動

★歴史に残る機体② CF-105アヴロ・アロー



歴史に残る機体シリーズの今回はアヴロ・アローです。カナダ独特の事情で想定した大型戦闘機が5機魔で完成しながら首相の鶴の一声で開発中止となり、機体はおろか図面、治工具まですべて廃棄されたのはどうしてなのか、今でも憶測が流れていますが、カナダ航空宇宙産業の終焉となったのは事実です。

 Avro Arrow: Could Canada's Cold War Super Jet Have Dominated the Sky?


June 17, 2016 

1950年代初頭のこと、カナダ政府は新型高速迎撃戦闘機の発注を準備していた。ジェット推進技術が飛躍的に進歩しカナダでも第一世代、第二世代の迎撃機各種が老朽化していた。広大な同国の空域をパトロールするため王立カナダ空軍には新型機の必要を痛感していた。
  1. アヴロ・カナダがCF-105アヴロ・アロー高性能迎撃機を最先端技術で提案した。大型で美しい外観のアローでカナダ領空は数十年にわたり防衛でき、同時にカナダ国内航空産業の存続も期待できた。
  2. だがそうならない運命だった。技術変革、政治情勢と国防重要事業の順位変動でCF-105は実現の目をふさがれた。同時にカナダの国防航空産業も芽を摘まれた。とはいえアヴロ・アローの名はその後長く残っている。
迎撃戦闘機として
  1. アローはB-58ハスラーやMiG-21フィッシュベッドと同様の技術と知識から生まれた機体だ。1950年代初頭は機体構造やエンジン技術で大きな進展があり、性能も飛躍的に伸びた時代だ。その反面変化も激しく1950年代初頭に生まれた機体は同じ50年代末に旧式化している。
  2. ソ連が長距離航空兵力を整備したことが戦略上の背景にある。1940年代のソ連は戦略爆撃機の第一世代をTu-4(米B-29のコピー)で整備した。その後登場したソ連爆撃機は高速かつ高高度飛行が可能となり、カナダ領空を横断し米国を標的にした。カナダ迎撃戦闘機隊には1950年代初頭にCF-100カナックがあったがソ連爆撃機迎撃は期待できなかった。
  3. そこでCF-105アヴロ・アローが登場する。アローのミッション内容はその後に登場したMiG-25フォックスバットと同様だ。高高度を飛行するソ連爆撃機がカナダ領空に侵入次第捕捉し撃墜することだ。初期テストではアローはこれが可能と判定されていた。オレンダ・イロコイエンジン双発(まだ開発中だった)でマッハ2を維持できるはずだった。また長距離空対空ミサイル3発から8発を搭載し、核弾頭付き対空ロケット弾も装備するはずだった。すべての点でアローは同時期のコンベアーF-106デルタダートと類似していたといってよい。
  1. 興味深いことに今日のF-35と同様にカナダは試作機を作らない方針をとり、機材導入後に設計変更を反映させることにしていた。50年経過しておなじ考え方がF-35の「並列進行」方式として見られ、今日ではコンピューターシミュレーションやテストで機体を早く飛行可能にできるはずだ。
  2. だが初期フライトテストを終えて生産開始を期待した時点でアローは戦略的な問題に遭遇する。まず地対空ミサイルSAMの登場で戦略爆撃機の高高度飛行は実施困難となり、低空飛行に切り替えるあるいは長距離巡航ミサイルの登場が急がれた。突如として高速迎撃機を中心にした防空体制は高価格低効果の存在になってしまった。世界各地で迎撃機は主役の座を降りた。二番目に大陸間弾道ミサイルの開発(アヴロがアローを公表したのはスプートニクが宇宙飛行をしたのと同日)でカナダ本土防衛の十分な実施は不可能となってしまった。
  3. 英米両国は高速迎撃戦闘機に未来はないと早々に判断し、機材開発を取り消している。(ただしF-106はその後も供用を続けた) カナダも追随し1959年2月20日にアロー開発を中止した。この決定はカナダ国内の防衛航空産業に大きな打撃となり、アヴロ・カナダは三年して事業を終了し(ホーカー・シドレーが残存部分を継承)オレンダエンジンは直ちに開発中止となった。 
  4. CF-105のかわりにRCAFはセンチュリーシリーズ戦闘機各種を米国から導入した。F-104スターファイター(カナダでの事故損耗率46%)、CF-101ヴードゥー(アロー取り消しより大きな論争を巻き起こした)である。このうちヴードゥーは迎撃機性能でアローをことごとく下回っていた。
  5. アローの死はカナダの三軍統合につながった。キューバミサイル危機で露呈した文官統制と予算不足が原因と言われるが、1950年代の各軍の対立(陸軍と海軍はアロー導入に強く反対していた)が実は大きな原因だ。さらにカナダ国内軍用航空機産業の消滅でカナダ空軍は強い支持勢力を失った。
今も残る伝説
  1. だがアローの伝説は開発取り消しとともに消えたわけではない。同機中止と同時に試作機は生産用の治工具類もろとも廃棄され、原因をめぐり陰謀論も出現した。多くは米国に理由があるとし、米政府が悪辣な影響力でアローを中止させ米国企業の競争相手の出現を防止したとする。
  2. 今日に至るまでCF-105伝説はカナダ航空愛好家の間では熱烈に信じられている。一部には試作機が一機だけ破壊を免れて現存しておりいつの日か公開されると信じる者もある。2012年には本気かどうか不明だがカナダ政府はトラブル続きのF-35に変わりアローを再開発すべきと主張する評論家もあらわれた。カナダ政府はこの提案を即座に否定した。とはいえカナダ国民はアローの特徴ある機体形状に愛着を感じ、2015年には空港保安検査でCF-105のダイカストモデルが筆者の荷物カバンからx線検査で見つかったほどだ。
  3. アローはフォックスバットと同様の機体になっていただろう。フォックスバットの登場の前に。迎撃機として超高性能だが制空戦闘機としては大きな欠点があったはずだ。技術進歩でアローの飛行速度はさらに上がっていただろうがフォックスバットの域には達しなかったはずだ。だが機体設計には多くの問題が第二世代、第三世代戦闘機共通の課題として残っていた。フォックスバットやF-106と同様にアローを攻撃任務に投入すると大変だっただろう。1970年代には多用途戦闘機が急速に台頭してきたが、アローは持て余す存在になっていただろう。

この記事の著者ロバート・ファーリーはNational Interestへの寄稿も多く、著書にはThe Battleship Bookがある。ケンタッキー大学パターソンスクール(外交・国際商業)で講師を務めている。その他研究成果には軍事政策、国家安全保障や海事問題を扱っている。Lawyers, Guns and MoneyInformation Dissemination、theDiplomat でブログを公開している
Image: Wikimedia Commons/Dennis Jarvis.


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

日本の防衛産業が国際市場でプレイヤーになれるか試されている。防衛面の多国間協力を支える産業が真の国際化を迫られている。

  iStock illustration CHIBA, Japan —  インド太平洋地域での中国へのヘッジとして、日米含む多数国が新たな夜明けを迎えており、軍事面で緊密化をめざす防衛協力が進む 言うまでもなく日米両国は第二次世界大戦後、米国が日本に空軍、海軍、海兵隊の基地を設置して以後緊密な関係にある。 しかし、日本は昨年末、自国の防衛でより積極的になることを明記した新文書を発表し、自衛隊予算は今後10年間で10倍になる予想がある。 政府は、新しい軍事技術多数を開発する意向を示し、それを支援するために国内外の請負業者に助けを求める。 日米両国軍はこれまで同盟関係を享受してきたが、両国の防衛産業はそうではない。 在日米国大使館の政治・軍事担当参事官ザッカリー・ハーケンライダーZachary Harkenriderは、最近千葉で開催されたDSEIジャパン展示会で、「国際的防衛企業が日本でパートナーを探すのに適した時期」と述べた。 日本の防衛装備庁の三島茂徳副長官兼最高技術責任者は会議で、日本が米国ならびに「同じ志を持つ同盟国」で協力を模索している分野を挙げた。 防衛省の最優先課題のひとつに、侵略を抑止する防衛システムの開発があり、極超音速機やレイルガンに対抗する統合防空・ミサイル防衛技術があるという。 抑止力に失敗した場合を想定し、日本は攻撃システムのアップグレードを求めており、12式地対艦ミサイルのアップグレード、中距離地対空ミサイル、極超音速兵器、島嶼防衛用の対艦ミサイルなどがある。 また、高エナジーレーザーや高出力マイクロ波放射技術など、ドローン群に対抗する指向性エナジー兵器も求めている。無人システムでは、水中と地上無人装備用のコマンド&コントロール技術を求めている。 新戦略の発表以来、最も注目されている防衛協力プログラムは、第6世代ジェット戦闘機を開発するイギリス、イタリアとの共同作業「グローバル・コンバット・エアー・プログラム」だ。 ハーケンライダー参事官は、日本の新しい国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛予算の増強は、「時代の課題に対応する歴史的な資源と政策の転換」につながると述べた。 しかし、数十年にわたる平和主義的な政策と、安全保障の傘を米国に依存してきた結果、日本の防衛産業はまだ足元を固めらていないと、会議の講演者は述べた。 三菱重工業 、 川崎

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックIIAとSM