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オーストラリアの安全保障のとらえ方・コミットメントは日本にも参考になる


最近はインド太平洋Indo-Pacificという言葉が目立ちます。安全保障、通商上の権益を考えると太平洋だけでは不十分という意識の広がりからでしょう。日本にとっても単に潜水艦の調達問題以上にオーストラリアとの安全保障意識の共有は重要です。その中でオーストラリアで国防問題に精通した前国防相の発言が出ていますので、同国の問題意識をのぞいてみましょう。

Australia Taking Long View in Defense Spending in Emerging Sub, Frigate Programs

By: John Grady
February 3, 2016 9:57 AM

Collins-class attack boats HMAS Dechaineux leads HMAS Waller and HMAS Sheean in formation in Cockburn Sound, near Rockingham Western Australia in 2013. RAN Photo
2013年、西部オーストラリアのコックバーンサウンドを通過するコリンズ級潜水艦三隻、前からHMASデシャニューDechaineux、HMASウォーラーWaller、HMASシーアンSheean RAN Photo

オーストラリア軍の装備近代化の上位項目は潜水艦、フリゲート、遠洋監視艇だと前国防相が2月2日にヘリテージ財団で講演した。
  1. ケビン・アンドリュース前国防相はワシントンDCで自由民主党政権により国防支出をGDP2%相当まで引き上げると決定されたことで10年間にわたる「長期的展望」で安全保障上の抑止効果と各国との協力体制がより効果を上げると述べた。
  2. アジアがオーストラリアの主要貿易相手先であり、「安全保障上の権益を決定する要因だ」と述べた。
  3. また新型潜水艦ではまもなく調達先をドイツ、フランス、日本から選ぶとしている。「既成の潜水艦では選択対象にならない」とし、潜水艦事業はオーストラリアにとって大型案件であり、今後10年間が事業期間となり、艦隊就役もその後20年に及ぶと指摘した。
  4. オーストラリア政府はインド・太平洋諸国が軍事装備の近代化を進めるのを横目に見ながら事業を推進していくが、特に中国の動向を意識している。アンドリュースも中国が域内で最大規模の海軍力、空軍力を保有しつつサイバー・宇宙分野でも装備を拡充していることを指摘し、「オーストラリアも静観しているわけにいかない」と発言。

Royal Australian Navy MH60R 'Romeo' Seahawk, flies past HMAS Canberra. RAN Photo
HMASキャンベラのわきを飛行するオーストラリア海軍所属のMH-60R『ロミオ」シーホーク。RAN Photo

  1. ますます自己主張を強める中国は東シナ海、南シナ海で大部分を自国領土と主張している。サンゴ礁を人工島に変換させ、米駆逐艦より大きな海洋巡視船を建造し、海洋進出の動きで野心を隠そうともしていない。
  2. 米駆逐艦が最近になり問題海域を航行したが「中国にとっては脅威と感じられない」形で人工島の近辺を航行しただけだとアンドリュースは指摘する。またオーストラリアも同海域に艦船を派遣しており、米国と同様に自国機を上空飛行させているほか、マラッカ海峡では30年にわたり監視活動を展開しているという。
  3. 「航行の自由を主張すると中国の利益にかなうことになる」とし、問題海域での領有権を巡っては平和裏に交渉すべきだと主張。
  4. アンドリュースは昨年行われたオーストラリア北部での演習に米海兵隊2,500名が参加しており、今後はダーウィン協定で海兵隊の規模は増えると紹介した。またダーウィンの軍港施設は拡張工事中でさらに大型の艦船の利用が可能になると言及。
  5. 「日本とは良好な関係にある」とアンドリュースは通商と安全保障の両面で権益を共有し、自衛隊との演習に米軍も加え実施していると紹介。インドとの関係は労働党政権で「険しくなった」が関係は改善しつつある。シンガポール、インドネシア、マレーシアとは強いつながりがあると述べた。
Three F/A-18 Hornets, Royal Australian Air Force, fly in a training mission during Red Flag 12-3 March 9, 2012. US Air Force Photo
オーストラリア空軍所属のF/A-18ホーネット三機編隊がレッドフラッグ演習で飛行中。2012年3月9日撮影。US Air Force Photo

  1. 中東ではオーストラリアはイラク政府を米国に次ぐ規模で支援しており、イスラム国との闘争を助けているという。イラクでは900名のオーストラリア軍隊員がイラク正規軍、特殊部隊の訓練にあたっており、空軍も作戦を展開している。F/A-18ホーネット・スーパーホーネット6機を派遣し、イラク・シリアで空爆を実施中であり、空中給油機、空中指揮統制機もそれぞれ1機派遣している。ただアンドリュースは空軍ミッションの三分の二は弾薬を投下せずに帰還していると推測している。目標情報が不正確なためだという。
  2. イスラム国との戦いが続くが、アンドリュースは「ラマディ奪還はモスルやラッカよりも重要度は低い」と述べた。モスルはイラク第二の都市でラッカはシリアでイスラム国が首都と称する都市である。ラマディはイラクのアンバール地方の中心都市だ。
  3. アンドリュースはインド太平洋地区の各国とオーストラリアは域内でイスラム過激主義が台頭していることを懸念していると強調した。ジャカルタで発生したテロ事件で8名が死亡したが、インドネシアが容疑者を釈放したこと、イラクやシリアから外国人戦闘員が帰国していること、さらにフィリピン南部でゲリラ活動が依然続いていることをオーストラリア政府は他国とともに注意深く観察していると述べた。■

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