米国が内向きになっているのは悲しむべきことです。今年の大統領選候補者を見ると今までなかった主張が堂々と述べられているのに驚かされますが、その最右翼は左翼のサンダース候補でしょう。当選の可能性はわかりませんが、こんな政策が実施されれば日本は相当防衛費を増やさないといけなくなるでしょうし、中国にとってサンダース候補が一番望ましい選択になってしまいます。
Feel The Bern! What A Sanders’ Military Might Look Like
ひとつ思考実験をしてみよう。ヴァーモント州選出上院議員バーニー・サンダースが大統領に当選したらどうなるか。サンダースの国防政策はどうなるか。アイオワでの接戦で当選が確実になるものではない。党大会への道は険しい。だが国防の観点に絞れば検討する価値はありそうだ。
- まず国防予算は大幅に縮小する。同候補の掲げる社会対策に資金が必要だ。税率アップで費用を賄うが、当然ほかの予算が削られる。民主党討論会でサンダースはスカンジナビア各国の社会福祉制度に言及している。各国はGDP比1.3%を国防に使っており、これは欧州地域NATO加盟国の平均に近い。これに対して米国は2016年に3.1%相当を国防に使う。(ただしここには戦役継続予算を含まず) これを1.3%に削るとDoD予算は2,350億ドルになるが、それでも世界最大規模とはいえ、現行の5.350億ドルが半減する。サンダースはまだこの提言を公にしていないが、自身の考える政府の役割のあるべき姿では当然この方向に進む。ではこの予算で調達できるもの、犠牲になるものを考えてみよう
- この予算規模をCSISが作成した戦力経費モデルに投入すると興味深い結果が出た。まず戦力はおおよそ6割カットで調達の仕組みは大幅に変更となる。この予算規模では第二次大戦後ずっと守ってきた戦力構造は維持できない。また世界規模でアメリカが当然のごとく実施してきた戦略も実施不可能となる。その前にすぐ現れる予算上、事業での影響を見てみよう。
- サンダースはペンタゴンの「ムダ、不正、乱用」を一掃すると主張している。同意見のものは多い。議会内部には党派問わず同じ主張をする向きが多い。ただし実際に改善し、事業を効率化に向けるのは困難だ。国防の無駄を削るのは社会福祉の世界で「福祉不正受取者」を排除するのと等しい。確かにこの問題は存在しており、政府は毅然たる対策をとるべきだが、実施しても大きな節減効果は生まない。実際に予算を節約するには人員や装備を削るしかない。
- サンダースがまず手を付けるのは核戦力だろう。繰り返し予算が多すぎると主張し、今後10年間で1,000億ドル削減を公約している。サンダースが採用するのは「最小限抑止理論」で、破滅的な報復効果を発揮できるだけの核能力だけあればよいとする。このための弾頭数は300から400との見積もりがある。なお、新STARTでは上限は1,550発だ。ここまで弾頭数を削減すればICBMは全数使用終了とし、爆撃機も退役させ、ミサイル原潜も現行の14隻を6隻に削減する必要があろう。新型長距離打撃爆撃機(LRSB)は高価格を理由に打ち切りになるだろうが、LRSBはまず通常兵器運用から開始する想定なのだが。同様に国家核安全保障局(NNSA)も縮小されるだろう。同局は核兵器を開発、製造する部局だ。兵器開発研究施設でもローレンス・リヴァーモア(カリフォーニア)が閉鎖されるだろう。すべて実施すれば年間150億ドル相当の節約効果が生まれるが、まだ十分ではない。
- サンダースはミサイル防衛にも批判的だ。そのためここでも大幅削減となるだろう。だが実質的な節減効果は大きくない。ミサイル防衛庁予算は81億ドルで半分が国土のミサイル防衛、残り半分が戦域大のミサイル防衛だ。このうち戦域対象のミサイル防衛のTHAAD、AEGIS SM-3やペイトリオットがテスト結果では先行しており、国土防衛システムは遅れている。戦域防衛は海外展開中の米軍や同盟国の防御に役立つため,党派超えた政治的支持がある。そうなると年間節約効果は10ないし20億ドルにとどまり、やはり必要額に達しない。
- 実際に節約を生むのは以下の方策だろう。
- 陸軍正規部隊を25万名まで削減する。現在は47.5万名体制。そのかわり予備役はさほど削減させず、29万名を州軍および陸軍予備部隊に維持する。サンダースの主張では海外各国に駐留する米軍部隊の削減、特に裕福な欧州や日本で減らす。陸軍は前方配備よりも急派部隊に性格を変える。それでも戦力は相当のものがあり、戦闘旅団25個を維持できるが、海外派遣には時間がかかり、砂漠の嵐作戦の再来は無理だ。
- 海軍は160隻程度に縮小し、空母(「冷戦時の遺物」)は5隻にする。ここまで縮小すると時間が相当かかるので、一部艦船は予定より早く退役させることになろう。米海軍は現有の艦船であと10年20年は生きながらえるだろう。しかし艦隊規模の縮小は海外プレゼンスの縮小につながる。太平洋を優先すると、欧州は全面撤退、中東も大部分撤収することになり、太平洋リバランスも想定より規模が縮小する。西太平洋諸国は撤退気味の米国より国力が伸びる一方の中国に依存することが多くなる。艦船建造の基盤産業力を維持するため、数隻の建造は続くだろうが、閉鎖に追いやられる造船所も現れる。まずカリフォーニアのNASCOとメインのバスアイアンワークスが消えるだろう。コネチカットのエレクトリックボートも存続が危うくなる。
- 空軍では第五世代戦闘機としてF-35(「驚くほどの浪費」)の生産は既存機の耐用年数延長に切り替え、F-16やF-15の稼働を続ける。空軍には清算済みのF-35やF-22で構成する第五世代機の在庫があるが想定より相当縮小する。
- 海兵隊は9万人(常備部隊)水準まで削減。これでも世界最大規模の陸戦隊といえるが、前方配備の維持は無理となり、第二次大戦終結後維持してきた体制が崩れる。
- 国防関係者がサンダース候補のキャッチフレーズ「バーン(=バーニー)の息吹きを感じろ」を実感すのは間違いないだろう。■
著者マーク・カンシアンはオバマ政権の予算管理局で主席国防予算アナリストを務め、現在は戦略国際問題研究所で国防アナリストを務めている。
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