なるほど技術優位性を確保してもすぐに他国が追いついてくる状況なので短期間のリードを保ちつつ、つぎつぎに民間技術を応用したイノベーション効果を期待するというのが第三の相殺戦略の骨子のようですね。極秘開発案件もありなかなかその内容が見えてきませんが、再来年の予算から具体像が見えてくるはず、というのがワーク副長官の考え方のようです。米国の官庁でMoTを一番真剣に考えているのがペンタゴンなのかもしれませんね。
We’ll Unveil Third Offset Details In FY17 Budget, Except The Black Part: Bob Work
By Sydney J. Freedberg Jr. on November 03, 2015 at 2:43 PM
ロバート・ワーク国防副長官
WASHINGTON: 昨年の今ごろ、ペンタゴン上層部は公に第三相殺戦略を新しい考えとして吹聴していた。その後、相殺そのものがステルスモードに入り、閉じられたドアのうしろで構想に取り組むようになった。
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- 記者はボブ・ワーク副長官に昨日会見し、相殺戦略の現状はどうなっているのか尋ねてみた。ワークから構想の全体像が明らかになった。なんといっても構想はワークが考えだしたものであり、現在のアシュ・カーター長官のもとでも高い優先順位が付いていることに変わりはない。
- 「第三相殺の意義をそのままお伝えすることはできない」とワークはDefense Oneサミット会議の席上で記者に語った。「長官がこの場で間もなく話題にするはずで、2月の新年度予算にも盛り込む。技術と運用の両面で現在の優位性を維持する」
- ワークは詳しい内容を明かしたが、一部は秘匿情報のままだ。ステルス機は1970年代の第二番目の相殺で重要な存在だった。精密誘導兵器やコンピュータ化した指揮統制もその一部だったが、ワークはペンタゴンはステルスを話題にしたのは1989年以降だったという。
- ただし今回の秘中の秘は攻撃手段としてのサイバー、宇宙空間、電子戦になりそうだ。ワークはこのことを口にしていない。だが軍用ネットワークや民間の重要インフラストラクチャの防衛と並び、サイバー安全保障の三番目の重要要素は「サイバー防衛能力であり、こちら側への攻撃を抑止するもの」と述べた。サイバー空間での抑止力としてワークが言及した内容は不明確なままだ。宇宙空間でも極秘開発が進展しているのだろう。現政権は新規予算50億ドルで今後5年で宇宙空間での指揮統制技術開発を進める。
- ワークが口にしていない内容にレーザー兵器やレイルガンがある。ともに飛来するミサイル迎撃に使える可能性を秘め、無人機や有人機にも対応できるかもしれない。発射コストは現行ミサイル防衛システムの数分の一にすぎず、しかも玉切れの可能性がない。
- 軍はロボット工学の応用に大きく関心を示しており、自走式地上車両から機雷を対処するミニ潜航艇、さらに無人機まで応用が可能だろう。ロボットは生身の兵員を危険な状況で助けるだけでなく、第二次大戦後のアメリカではじめて数の上の優勢をもたらすかもしれない。
- 「相殺戦略」の語句そのものは1970年代に生み出されており、数の上で米軍がソ連にかなわない状態の中で数の劣勢を高い水準の性能や技術で「相殺」する構想だった。その後遡及してアイゼンハウアー時代の「ニュールック」に適用され、共産圏の数の優位性に対して通常兵力ではなく核兵器を侵略行為には躊躇なく投入すると警告した事例が応用例とされた。当時の米国の核兵器の貯蔵量はいかなる国を凌駕していた。だがソ連が核兵器で追いつくと、米国は通常誘導精密兵器での優位性を前面に立てた。これが第二の相殺戦略だ。これまでの相殺戦略と現在の構想には相当の違いがあるとワークは指摘しており、その違いとは特定の兵器にこだわることで誤りにつながるという点だ。
- 「第一、第二の相殺戦略では競争相手は一カ国だけだったが、今や心配すべき相手は四カ国ある」とワークは指摘する。ロシア、中国、イラン、北朝鮮だろう。「さらに国境を超えた地域内テロ活動も発生している」としイスラム国が念頭にあるが今後新しい流れに転移する可能性もある。
- 「ソ連とは一貫して長期間に渡る競争関係があった」とワークは続け、米国の軍産複合体に技術革新で優位性があったことを指摘した。ただし現在の軍用新技術は世界各地の民間企業が生み出している。
- そうなると数多くの敵国が技術革新の情報源にアクセスできることで、競争の内容が複雑化し、予測が立たず、冷戦時代よりも熾烈になる。「第一大戦と第二次大戦の間と同様で、無線通信の存在は皆が知っており、戦車の存在も誰もが知っており、飛行機についても同様だった」 ただし、ワークは「最初に実用化し、初期作戦状態に持って行った側が戦術でも有利になった」という。
- ここで「初期優位性」というのは他方が簡単に模倣できるからだ。日本の空母部隊が真珠湾を攻撃したがその後アメリカの空母部隊により粉砕されている(その背景には暗号解読もあったが)ミッドウェーまでは7ヶ月しか経っていない。ドイツはロシアの大部分を1941年に蹂躙したが、1944年までにロシアがドイツを電撃戦で撃破している。21世紀には新技術はすべての国が利用可能となり、このような逆転劇が当たり前になると、アメリカの独壇場だったステルス技術もうかうかしていられなくなる。
- 「競争は熾烈になっていきます。技術面での逆転は簡単に発生するでしょう」とワークは言う。「第三相殺では優位性を40年間も維持しようとは考えません。急速に追いついてくる相手が多いのです。そこで今考えているのは今後5年ないし10年程度の優位性を確保することであり、その優位性の実現のために作業を進めます」
- 問題になるのがペンタゴンが早い技術革新ではあてにならない点だ。そこでまず技術そのものではなく、軍が技術を導入する仕組みそのものを変えていく必要がある。
- これはワークも認めている点だ。カーター長官はシリコンバレーに調達事務所を開設し産軍複合体と情報産業の間の技術ギャップを埋めようとしている努力をワークは評価する。ペンタゴンは10百万ドルでパイロットプロジェクトとして情報各機関のベンチャーキャピタルIn-Q-Telとともに進めている。また調達・技術・補給活動を担当する副長官フランク・ケンドールも長期間R&D案を打ち出した。ワークによれば国防総省は「真剣にパラダイムを変えようとしており、今後競争状態が厳しくなる環境でも機敏に動けるようになるだろう」■
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