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核兵器の廃絶は逆に危険を招く。核抑止力の整備は今後も必要だ


平和は祈りさえすれば実現するものではありません。一方で戦争は天然災害とは違い、その気になれば防止できます。現実世界では核兵器があまりにも恐ろしい結果を生むために大規模戦闘の抑止力になってきたのが大国間の歴史です。これに対し核兵器全廃を主張する向きは独自の世界観を持っているようですが、逆に核兵器を全廃した場合の世界をどう考えるのでしょうか。また超大国による核兵器の応酬というこれまでの世界大戦観より非国家勢力による衝動的な核の使用があれば大変なことになります。広島の原爆記念日に日本では受けいられることのない主張ですが、あえて掲載することにします。

The Lessons of Hiroshima: We Still Need Nuclear Weapons

By BLAKE MCMAHON and ADAM LOWTHER on August 05, 2015 at 4:29 AM
米国が広島に原子爆弾を投下した70年前から戦争の形態は新時代に入った。8月6日の地上に出現した地獄は人類未経験の惨禍だった。
  1. 推定で広島の当時の人口38万人のうち最低9万人が爆発とともに死亡している。その後さらに数万人が放射線被曝で死亡している。東京大空襲ではもっと多くの死亡者が発生しているが、広島のように一度に死亡しているわけではない。
  2. 「リトルボーイ」爆弾が広島で、「ファットマン」が長崎で投下され、原子兵器の威力を見せつけた。ただし各爆弾の威力は15キロトン程度と今日の核兵器より相当小さい。
  3. 人道の見地から可能な手段を全て講じ今後の戦闘で核兵器が絶対に使われないようせねばならない。使用された場合の結果はあまりにも悲惨だ。
  4. 広島70回目の記念日を迎える中、核兵器全廃を主張する向きがある。「グローバルゼロ」運動などで、広島の惨状を伝え、核兵器削減・廃絶を訴えている。核兵器がなくなれば、使う可能性もなくなるというのがその主張だ。
  5. ただしその主張は過去の経験を正しく理解していない。
  6. 歴史、経験則そして論理から核兵器備蓄量を減らせば逆効果が生まれるといえる。核攻撃に踏み切ろうとする敵は想像を絶する反撃を覚悟せねばならないからだ。もしわが方の二次攻撃が敵に多大な損害を与えられないと、広島や長崎の例が示すように抑止力にならない。
  7. 冷戦が熱い戦闘にならなかったのは単に運の問題ではない。冷戦期に米国とソ連は危機状態のエスカレーションを多大な努力で回避してきた。自制できたのは核兵器の破壊効果が理解していた両陣営が慎重になっていたからだ。
  8. ソ連の崩壊で核兵器が不要になったわけではない。核廃絶論者の主張と反対に米国・同盟国の核兵器はより大きな役割を今後も果たすだろう。通常兵力の力不足を核兵器で補うべく、使用をためらわない敵が相手だからだ。もし米国が核抑止力の整備を怠れば通常戦は一気に核戦争に推移する。対照的に米国がグローバルゼロの先頭に立ち自国の兵器庫を空っぽにすれば悲惨な結果を招く。
  9. 世界各国に核兵力の放棄を説得すれば製造がなくなると考える空想の世界でさえも、歴史の教訓から平和な世界が到来するとは言えない。大国間の大規模戦闘を20世紀後半において核兵器が防止してきたのは事実だ。敵対する二大勢力が共に核兵器を保有すれば、核兵器応酬にエスカレートするのは必至なのでお互いに侵略行為はとれなくなる。
  10. 核兵器が破壊力の点ですざましい威力を持っているのは疑う余地がない。文明を完全に破壊する力がある。また放射線の効果はその後も続く。恐ろしい兵器であるからこそ今後も保有を続けなければならない。自制してきたからこそ人類は生き残ってきたことに疑いはない。
  11. 核兵器がすべての侵略行為を抑止するわけではない。だがもともとそのための存在ではない。核兵器の存在意義は敵の侵略行為を食い止め、米国・同盟国を守ることにある。脅威を発生させないことに価値がある。核兵器があるからこそ世界は安全で平和に保たれるのだ。
ブレイク・マクマホンは空軍研究所の研究員兼教授。アダム・ロウサーは空軍が新設した高等核抑止力研究スクールの所長。同スクールは戦略思考のエリートを養成することが目的。なお、本記事で表明した意見は原著者のものであり、米国空軍、国防総省、あるいは米国政府の公式見解を反映するものではない。■

コメント

  1. 核保有国同士の大規模戦争の抑止力としては、確かに核は今でも有効に機能していているとは思うけど

    この主張は、今の問題が、中国とロシアという核保有国が、核の力を、非核保有国を侵略する後ろ盾として積極的に活用し始めてしまったという事実を無視してしまっていると思う

    じゃあだからどうすれば善いって意味では無く
    従来の核抑止理論の大前提である、核保有国の非核国に対する道義的な義務が、放棄、逆用される時代になってしまったという認識が必要だという意味で、

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