スキップしてメイン コンテンツに移動

★変わる日本の防衛政策を米側はどう見ているか

参議院での審議も続いているようですが、法案の成立が待ち遠しい今日この頃です。以下の米海軍協会サイトの論文はなかなか要点をついていますが、デモ隊写真が新華社提供というのは考えさせられますね。
「USNI News」の画像検索結果

Essay: Understanding Japan’s Shifting Defense Policy

By: Kyle Mizokami
August 20, 2015 10:55 AM

Japan's Prime Minister Shinzo Abe reviews members of Japan Self-Defense Force (JSDF) Oct. 26, 2014. Reuters Photo
自衛隊を観閲する安倍首相。2014年10月26日。Reuters Photo

安倍内閣が国防政策ですすめる大きな変革の内容は米国政府、太平洋地区の米軍にも重要な意味がある。これまでの内向きな対応からより積極的かつ動的に二国間のみならず多国間関係を重視する新しいねらいが、日本国内で物議をかもしているとはいえ、各国からみればごく普通のものにすぎない。

  1. 安倍内閣の安全保障は日本を世界にもっと関与させる方向にもっていこうとし、米国との協同作戦能力を引き上げるものだ。日本が有する事実上の軍事力自衛隊は日本防衛で米国と同等に作戦が実施できる。
  2. 安倍首相は防衛法案2案を通過させようとしている。ひとつは国連平和維持活動に参加する各国の支援をするものだ。現状では紛争の一方に加担することになるとの理由で国連活動であろうと実施できない。
  3. 二番目の法案は現行法複数を改正し集団的安全保障を可能とするものでもっと重要な中身だ。日本が攻撃を受ける他国の救援に駆けつけることを許すもので、国連憲章第51条ですでに認められている概念だが、日本では憲法解釈上禁じられてきた。
  4. 集団的安全保障葉かねてから安倍の持論だったが、中国との関連で実施が急務となっている。日本専門家の一人は安倍政権は中国が日本と交戦しても日本がもっと世界に通じる主張を展開していかなければ米国は日本防衛をしてくれないと見ている。


Japanese ship Shimokita operates U.S Marine V-22 Osprey aircraft near San Diego Calif. in 2013. US Navy Photo
カリフォーニア州沖で米海兵隊MV-22を運用する輸送艦しもきた(2013年). US Navy Photo

防衛予算の行方

  1. 中国が国防予算を年率10パーセントも増やす中、日本は0.8パーセントと控えめな拡大を2018年にかけて続ける見込みだ。次年度防衛予算の要求は5.2兆円(419億ドル)だ。野党の反対姿勢、経済成長が不確かで財政赤字がGDPの233パーセントになっていることからこれ以上の予算拡大は見込めない。
  2. 日本は大規模防衛調達案件を三つ抱えており、大部分は米国原産の装備だが、米軍との共同作戦実施や相互運用を重視している。来年度予算では大型案件としてSH-60ヘリコプター17機、新型戦闘艦、105mm砲搭載8x8輪車両があり,後者は迅速展開部隊への火力支援を目的とするものだ。
  3. さらにいずも級ヘリコプター駆逐艦の二番艦建造、イージス駆逐艦2隻追加、ベル=ボーイングV-22オスプレイ17機、ロッキード・マーティンF-35A共用打撃戦闘機42機の調達が控えている。また新型水陸両用車両の開発がうわさされており、米海兵隊から購入した中古車両52両の代替用となるといわれる。

A member of the Japan Maritime Self Defense Force works inside the combat operations center of the Ticonderoga-class guided-missile cruiser USS Antietam (CG 54) on Nov. 27, 2013. US Navy Photo
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦USSアンティテタム(CG-54)の戦闘作戦室で訓練を受ける海上自衛隊員。2013年11月 US Navy Photo

日米演習から共同作戦へ
  1. 米軍と自衛隊は毎月共同作戦を実施しており、時には毎週となることもあるが、安倍政権はさらに協力を深化させている。今夏は陸海空自衛隊が米軍の各部隊と演習を実施中だ。
  2. 7月は航空自衛隊の機材がエルメンドーフ・リチャードソン共用基地でレッドフラッグ15-3に参加している。航空自衛隊はレッドフラッグ演習の常連だが、今年は三菱F-15J戦闘機6機、C-130輸送機3機、KC-767給油機2機、E-767AWACS1機を派遣している。
  3. 8月12日、陸上自衛隊第一空挺団の落下傘兵が米軍の同僚たる第25歩兵師団第四連隊とともにアークティック・アウロラ演習に参加した。日本の落下傘兵が米本土に降下したのは初。同日に自衛隊の特殊部隊員が米陸軍のブラックホークヘリコプターに搭乗中にUSNSレッド・クラウドへの着艦に失敗して負傷している。
  4. また8月後半に陸上自衛隊、海上自衛隊がドーン・ブリッツ演習Exercise Dawn Blitz にカリフォーニア州で参加する。ヘリコプター駆逐艦ひゅうが、イージス艦あしがら、揚陸艦くにさき、他規模不明の陸上自衛隊両用部隊隊員が米国主導の多国間演習に参加する。
  5. 米国以外にオーストラリア、フィリピンとも共同訓練を実施しており、今後インド、インドネシア、ベトナムとも同様の訓練を実施する合意ができている。


U.S. Navy and Japan Maritime Self-Defense Force (JMSDF) ships underway in formation as part of a photo exercise on the final day of Keen Sword 2011. US Navy Photo
共同演習Keen Sword 2011最終日に米海軍艦艇と航行する解除自衛隊艦艇。 US Navy Photo

南シナ海で共同作戦の展開へ

  1. 米国との訓練はこれまでもあったが、共同作戦はまだなかった。対中国戦略の一環として日本も中国の領有権主張を認めない各国と歩調を合わせている。
  2. 「航行の自由」パトロールを行う米軍構想に日本は関心を示しており、他にフィリピン軍も加わる見込みだ。南シナ海で活動を展開しても日本には損はない。もしこれで中国の膨張を食い止められれば日本の戦略目標が達成される。.
  3. 海上自衛隊艦船や航空機が南シナ海に展開すると挑発行為と見られるだろう。中国政府は日本が南シナ海でパトロールを展開することは「受け入れがたい」としており、南シナ海の9割は中国領海だと主張している。

相互運用のカギとなる装備品調達

E-2D Hawkeye from the Pioneers of Air Test and Evaluation Squadron (VX) 1 on Aug. 27, 2013. US Navy Photo
E-2D. US Navy Photo
  1. 米海軍の協調型交戦能力 Cooperative Engagement Capability 構想でセンサーデータを共有しネットワークを介してミサイルに標的情報を提供するべく装備を調達するのは自衛隊がこれまで以上に米軍と密接に作戦を展開する意図があることを示している。
  2. 自衛隊が米軍との共同作戦で重視するのがノースロップ・グラマンE-2Dホークアイ性能向上型4機だ。この早期警戒機の調達は総額17億ドルで国務省が6月に承認しており、今後はNAVAIR海軍航空本部が手続きを進める。
  3. E-2Dが搭載するAPY-9レーダーは日本・同盟国の海上部隊のレーダー探知範囲を拡大する以外に、弾道ミサイル探知にも水上艦より遠距離から対応でき、巡航ミサイルや航空機へはSM-3やSM-6をネットワーク化した艦船から発射する。
  4. また日本が計画中のイージス駆逐艦7号艦、8号艦はまもなく建造が始まり、協調型交戦能力および共通データリンク管理システムが搭載され、対空脅威、ミサイル脅威の情報を米艦・航空機と共有する。この協調型交戦能力により日本のイージス艦はセンサー搭載機材としてF-35、E-2Dと共有してデータを他艦に伝えることができる。日米の差は問わない。


Protestors against Japan's shift in defense policy. Xinhua Photo
防衛方針変更に反対するデモ隊 . 新華社.

日本国内の戸惑い、法案成立は確実


  1.  安倍政権による安全保障改革は大きな波紋を呼んでいる。第二次大戦終結後の日本は平和を何より優先する考えを採択し、紛争解決に軍事力を行使しても効果を生まないと考えるにいたっている。そのため安倍政権の目指す方向は大多数の日本人には平和を志向する姿勢の後退、再軍備への道と受け止められている。.
  2. それでも安倍政権や背後の自民党への政治対抗勢力が大きくないことから今後野党からのゆり戻しはないと見る。二院制をとる日本の議会下院が安全保障関連法案を7月に通過させており、上院は9月6日までに法案の採決を迫られている。仮に上院が法案を通過させなくても、下院は通過させて上院の否決を無効にできる。

結語

  1. 安倍首相が進める防衛政策の変更にはとくに変わった内容はない。日本では物議をかもしても、国連が各国の権利と認めるものを日本で実現するに過ぎない。日本社会で今回の変更に対する反対が着実に増えているが、法案は可決成立する可能性は十分ある。
  2. 一方で自衛隊は米軍の空軍海軍部隊との共同作戦体制に向かい、これまでと異なる次元に入ろうとしているが、両国部隊が戦場で切れ目のない統合運用におかれることになる。関心の的がインド太平洋に移ると日本は米国にとって一番価値があり有能な同盟国と映るはずだ。■


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ