たぶん読者の皆さんには受けが悪いと知りつつ、この話題は継続していることもあり、あえて掲載します。
ISIL Is The Symptom, Syria’s al-Assad Is The Disease
WASHINGTON: 敵の敵は誰か。これが米中央軍の作戦立案スタッフが最近直面した疑問だ。中央軍はコラサン集団Khorasan Groupというアルカイダ強硬派を狙い、同集団がシリアで合衆国、欧州を標的にしたテロ攻撃を計画しているとしていた。空爆によりアルヌスラ戦線 Al-Nusra Front (アルカイダのシリアにおける提携先)がコラサン分子を供給していることもあり、同時に攻撃対象となった。
- だが米軍はシリア国内の反乱勢力も怒らせてしまった。もともと合衆国の代理と期待されていた世俗勢力だが、戦闘ではアルヌスラとの戦術面で連携して共通の敵と戦っている相手がダマスカスのバシャ・アル・アサド政権だ。米軍空爆への報復としてアルヌスラ戦闘分子がイラク・レヴァントイスラム国家(ISIL)に合流している。ISILこそイラク、シリアでの合衆国の主たる敵だ。
- 両者は結託して合衆国が支援する反乱勢力自由シリア軍 Free Syrian Armyに攻勢をかけ、自由シリア軍はトルコ国境付近の北部へ追い詰められた。アルヌスラ戦線とISIS指導層が会見して共同戦線を形成したとの報道がある。
- 敵が合流し、味方が弱体化すれば、戦略再考の潮時といってよい。オバマ大統領の安全保障チームが先週だけで四回も会議をしたのは根本的な戦略がISISを「劣化敗退させる」目標と遊離していると認識している証だろう。複数筋が今回の作戦で段階的アプローチを採用したオバマ政権自体が混乱を巻き起こしている、最終段階でアサド政権崩壊に追い込むと公に認めていない点を指摘している。
- 自らの戦略を敵に隠すこと(時には同盟国へも)は民主主義国家においても成功を勝ち取る基本的条件である。
- 「政権内部ではシリア向け政策の最終目標はアサド追放との認識があるが、社会一般は混乱が発生しているのは玉石混交の同盟をつくったためと信じがちだ」と語るのはダフナ・ランドDafna Rand (最近まで国家安全保障会議勤務、現在は新アメリカ安全保障研究所Center for a New American Securityの研究部副部長)だ。ジョン・ケリー国務長官は域内同盟各国とともにイラン、ロシアとアサド放逐の可能性を協議していると伝えられる。
- ランドは「根本的な疑問はロシアとイランにアサド政権との関係を分断させるにはどうすべきかです。一方で、アサドが自国内で米軍がISIS目標の攻撃を行うのを看過しているとは思えません。米軍が空軍力を使って介入した他の事例を見れば、アサドのような暴君がのさばれる結果にならないのは明らかですからね」
- 公にしていないがISISを「劣化敗退させる」作戦の対象にアサドが含まれるのがオバマ政権の理解だ。
- 政治面では共和党上院議員ジョン・マケインが上院軍事委員会Senate Armed Services Committee (SASC)委員長として自由シリア軍部隊向け訓練、装備提供を加速化すべく激を飛ばすことでアサド政権と合衆国は対決に近づくはずだ。マケイン議員は9月16日のSASC公聴会でチャック・ヘイゲル国防長官と統合参謀本部議長マーティン・デンプシー大将に、もしアサド政権の空軍部隊が合衆国の支援するシリア反乱軍を攻撃したらどうするか尋ねている。
- デンプシーは「その決定は今後に任せたい」と回答。情報筋によれば統合参謀本部はすでにシリアの代理部隊を守り強化すべく米軍部隊の活用方法を検討中だという。ヘイゲル長官はマケインに「我が国が訓練した部隊が攻撃を受ければ、我が国はそれを助ける」と回答。ヘイゲルから国家安全保障担当補佐官スーザン・ライス宛に書簡数通が送られており、現在のシリア戦略を深く杞憂していると伝えたといわれる。また合衆国は「アサド政権への対処方法を厳しく見直すべきだ」としているという。
- ケリー国務長官もアサドから権力を奪わない戦略は非現実的と見ているといわれるが先のスイス交渉では二回続けてイランとロシアの説得に失敗し、アサド政権への支援が両国から続いている。これはまだ進行形だが、国務省はイラン核問題を慎重に協議中でロシアとはウクライナ分離推進派支援の可否を話し合っている最中なので、アサドへの最後通牒を持ち出して協議を危険にさらしたくないのだろう。
- ISIS作戦で重要な推進役となる地域内同盟各国からアサド放逐を戦略案の一部に入れるよう強力な圧力が合衆国にかかっている。トルコとサウジアラビアが殊に強く主張しており、アサドが入っていない結末では両国の支援が不確かになりかねない。
- 「オバマ政権はシリア国内にあらわれた病状に対応しているが、病気そのものつまりアサドには対応していない」と言い切るのはターキ・アル・ファイサルTurki Al Faisal(サウジアラビア前情報長官、ファイサル国王イスラム研究センター長)で先週ブルッキングス研究所の講演での席上のことだ。
- 「シリア情勢は戦術面では非常に複雑化しているが、戦略面では極めて明白だ。軍事論理ではバシャ・アル・アサドの退場に向かっている」と発言したのはクリストファー・ハーマー軍事研究所主席研究員Christopher Harmer, a senior analyst with the Institute for the Study of Warだ。地域内の主要同盟国サウジアラビアとペルシャ湾岸各国ヨルダン、トルコとイラク国内のスンニ派指導層はすべて同じ主張だ。「アサドが原因で過激派が力を付けた。アサドがダマスカスで権力を掌握したままではISIS打倒は困難だし、シリアに望ましい結果が生まれない」
- 軍事面ではイラクを当面の注力の対象とし、シリアはあとまわしとする合衆国の戦略にほころびの兆候が見られる。合衆国がアサド駆逐を公に目標としない限り、シリア代理勢力は5,000名から15,000名程度から増えず、実力のある反乱勢力にならないだろう。または反乱分子がISISと提携してしまい、共通の敵アサド放逐に回るかもしれない。合衆国が目標と責任感をあいまいにしたままだとロシア、イランがアサド政権支持を中止しないと見る専門家もある。
- 「オバマ政権は非常に細い外交ラインの上を歩もうとしていますが、内戦はいつも恐ろしいテロリスト集団が生み、ISISのような集団に勝つ方法はその内戦を止めるしかありません」と語るのはケネス・ポラック Kenneth Pollack 元CIA中東アナリストで現在はブルッキングス研究所主任研究員だ。「そしてロシアとイランにアサド支援を中止させるにはアサドに勝ち目がないことを明らかにすること、アサド自身が重荷であることを示すしかありません」■
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