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中国空軍を理解するためのキーワード10


China Flies

JULY 2014
BY REBECCA GRANT
10 things Americans need to know about the People’s Liberation Army Air Force.

今日の中国空軍は冷戦時のソ連空軍の規模、錬度には到達していないが、アジア各国は拡大を続ける中国海軍・空軍との遭遇が増えそうだ。
「中国は南シナ海で高圧的外交をたくみに展開している」と論ずるのはオリアナ・スキラー・マストロ Oriana Skylar Mastro (ジョージタウン大教授、空軍予備役)で、三沙島に駐屯地を設置したのも上層部の直接の指示による意図的な動きだと解説している。
これは中国による防空識別圏設定(2013年)や同年12月の巡洋艦USSカウペンスが中国護衛艦により妨害を受けた事件以前に発生している。
人民解放軍空軍PLAAFおよび小規模の海軍航空隊、陸軍航空隊は急速に変貌を遂げている。米空軍はその実態の把握に懸命である。以下は現時点でのPLAAFに関し知っておくべき10事項である。

1. 日本付近を飛行している
中国機が東シナ海上空に飛行すると日本がすかさず反応する。中国機へのスクランブル回数は2009年の38回から2013年は415回に急増。2013年9月8日にはH-6爆撃機2機が宮古島と沖縄本島の間を飛行している。H-6は旧ソ連のTu-16バジャーが原型だが、大幅改良されており、数百マイル射程の空中発射巡航ミサイルを発射でき水上艦あるいは陸上の固定目標へ有効な攻撃手段となる。日本の防衛省は同上爆撃機の飛行経路を公表する異例の措置に出た。
ハーバート・J・「ホーク」・カーライル大将Gen. Herbert J. "Hawk" Carlisle(太平洋空軍PACAF司令官)は日米安全保障条約を重視し、中国の飛行活動増加に対抗出来るのは米国の存在だとする。先月も航空自衛隊と中国空軍の小競り合いが報道されていたが、今回は危険なほど機体が接近していた。たびかさなる遭遇で東シナ海上空は高リスク空域になっている。
「中国は日米が強力な友好関係と同盟関係で結ばれて両国の共同対処も見ている。そこで両国はこの地域の安全と安定のために脅威に対応していく」とカーライルは今年4月の朝日新聞に述べている。

2. 中国は歓待する 
米空軍参謀総長マーク・ウェルシュ大将 Gen. Mark A. Welsh III,はカーライルおよびジェイムズ・コディ空軍最高級曹長 CMSAF  James A. Cody を伴い2013年末に訪中し、「大変厚遇された」と帰国後語っている。
米空軍訪中団は誘惑攻勢を受け、ウェルシュは「中国空軍参謀総長馬暁天Ma Xiaotianは主人役をいかんなく発揮した」と述べている。中国が米空軍参謀総長を招いた前回は1998年でPLAAF司令官の訪米は1997年以降途絶えている。
その間にPACAF司令官(当時)ポール・ヘスター大将が2007年に訪中し空軍基地二か所を視察している。へスターはSu-27とFB-7全天候超音速中距離戦闘爆撃機を見ている。「まだわかっていない機体がたくさんあり質問の答えも得られていない」とへスターは感想をホノルルアドヴァタイザー紙に述べている。「中国軍の方向性について尋ねたが明確な答えは得られなかった」
カーライル大将(2009年にPLAAF設立60周年式典に参列)も米中関係の絡みで感想を述べている。朝日新聞に対し「中国側との対話で理解が深まる。中国側にもこちらの理解を深める効果がある。今後良い方向に影響力を与える可能性がある」と述べている。
ウェルシュも訪中後に「最大の結果は相互意思疎通ができるとわかったこと。誤解を防ぐための協力で事故を回避できる。軍組織同士の交流は今後の米中関係の柱になると思うし、両国をつなぐ役目があると思う」と述べている。
ただし注意が必要だ。米太平洋司令部との交流が例だ。人民解放軍が太平洋軍に接触するのは中国の関心事に合致する場合あるいは太平洋軍が参考になる教訓を提供できる場合だ、と専門家は指摘。だが中国の地位が向上して外部との接触への態度が変わってきた。現在のPLAはPACOMをどうやって打破するかに関心があるのだという。

3. 他国の空軍関係者を歓待する .
中国空軍は自ら外遊するよりも訪問者を迎えるほうが良いらしい。
各国軍との交流回数は2001年から順次増加していると中国専門家ケネス・アレンは指摘している。アレンは空軍退役将校で中国駐在空軍武官補をつとめており中国空軍の内側に詳しい第一人者とされている。その観点は装備ではなく、人員、組織および訓練に集中している。
活動がさらに活発化している。アレンによるとPLAAF教練大学校に中国以外41か国のパイロットも参加し戦術、戦闘方法などを学ぶコースが開催されているという。参加したのチリ、パキスタン、フィリピン、サウジアラビア、シンガポール、ヴェネズエラ等。
同様にカーライルも「参加各国がそれぞれ中国と二国間関係を有していることに注意が必要だ。通称相手でもあり、経済関係、文化のつながりが多岐にわたっている」と注意を喚起している。

4. 陸上部隊の脇役を務めている。今のところは。.
中国によればPLAAFの部隊規模は398千人で軍全体の17%相当にすぎない。
PLAは「陸軍中心の価値観」を有するとアレンは言う。各国駐在の大使館付き武官は大多数が陸軍将校で情報関係が専門だ。人民解放軍は党の中央軍事委員会(CMC)に隷属する組織であり、国防省の下にあるのではなく、国家の意思で動く組織でもない。CMCの構成は軍人10名と文民一名だが主体は陸軍出身者でこのCMCが軍の近代化を取り仕切っている。
PLAAFが加わったのは比較的新しく2012年で、そのうちひとりが馬参謀長で、もうひとりがまもなく退官する許其亮 Xu Qiliang空軍司令官でCMC副委員長を務めている。
このうち許はCMCの陸軍高官と並ぶ位置に上った最初の空軍関係者で遠慮しないしゃべり方をする戦闘機パイロットでもあり、中国が対衛星攻撃手段はじめ宇宙での支配を強める能力を開発し、宇宙へのアクセスを確保するべきだと主張している。(中国では宇宙開発は陸軍の主管事項) さらに許は紛争が空から宇宙へ拡大するのは「歴史的必然性」だと公言しており、マルクス主義の影響を受けたしゃべり方をしている。
中国軍事組織で最高の地位をほこる場所に空軍関係者2名の座席が確保されたのは中華人民共和国建国以来初めてのこと」と中国ウォッチャーは2012年に寄稿している。「陸軍の60年に及ぶ支配が緩む兆校とみる向きが多い」

5. 実戦経験は浅い
許と馬の二人はPLAAFの空軍力をより遠隔地で共同運用で広げようとしているようだが、最大の障害は中国の戦闘体験の欠如だろう。 「PLAAFが空対空戦をしたのは朝鮮戦争と1958年の台湾海峡危機の二件しかなく、後者に至っては数日しか続かなかった」(アレン).
防空部隊には最近の経験はなく、「一番新しいSAM運用はベトナム機が誤って国境を越えて飛行してきた1987年の事件」だという。

6.  近代戦史を学んでいる
実戦経験の不足を近年の作戦事例を学ぶんで補おうとしている。カーライルも訪中して中国指導層が改善に真剣な姿に気づいている。
「砂漠の嵐作戦を研究しており、旧ユーゴスラビアでの事態の推移、イラクの自由・不朽の自由作戦も研究している」とカーライルは帰国後の取材に答えている。西側諸国の圧倒的な空軍力は中国にとって改善の鍵だ。「研究して合衆国や西側より戦略的に不利だとわかったのではないか」
「実戦経験に乏しいPLAが一層深い分析と研究でこれを補おうとする」大将は米国はじめ各国の戦闘手法だと陸軍大学校が出版したDean Chengの論文(2011年)が解説している。その中で中国側に強い印象を与えたのは高性能技術体系、統合作戦の実施、広範囲な地域を網羅する指揮統制機能、弾薬消費の高さであったという。

7. 世界規模で活動を拡げようとしている
中国が初めて長距離航空作戦の実施に踏み切ったのは2005年のことで、747機に104トンの救援物資を積み込みハリケーンカトリーナの被災者向けにリトルロック空軍基地(アーカンソー州)に届けた際のことである。「異例のことだった」と米空軍ジョセフ・リーハイザー准将が新華社通信に発言している。「歴史家ではないが、中国が米国に救援物資を空輸してきた事例は思いつかない」 
2010年にはSu-27分遣隊がトルコのコンヤ空軍基地に到着し、トルコのF-4と合同訓練を実施している。これは
PLAが派遣部隊を創設する第一歩の動きだとみる向きもある。
2011年にはさらに加速し、2月から3月にかけPLAAFはIl-76部隊を派遣し、リビアから中国国籍市民1,655名をスーダンへ運び、287名が中国本土に戻っている。
国際救難活動への参加はその後増えており、パキスタン洪水にIl-76を4機、、翌月は3機がタイへ派遣されている。.
台風Haiyan(30号)がフィリピンを2013年襲ったが、中国の救援活動は大幅に遅れた。またマレーシア航空MH370 の行方不明事件でも精彩を欠いた活動を展開したにとどまっている。

8. 大家族
PLAAFは組織構成上から内向き志向になっている。人民解放軍には独特の社会力学があり、軍事組織というよりも同居家族の様相を示している。1949年の建国以前に毛沢東の部隊に加わった人々が教育機会を得て、糧食も優先的に与えらえ、その後PLAになった組織内で昇進昇級を重ねてきた。
中国の兵員は同一部隊で職歴を積むのが通例で、強固な人間関係を育てることが多いとアレンは指摘する。
搭乗員も一機ずつに配備され、パイロットも一機種せいぜい二機種を操縦することが多い、とアレンは説明する。中国製航空機は手作りで製作されており、搭乗員、パイロットは各機の装備を裏も表も学ぶことになるという。
驚くべきことに中国パイロットは一度配属されると基地を移動しない。アレンは航空隊司令に相当するものがタキシ―から離陸まで含むフライト業務を詳細に管理しているという。部隊は機種別に編成される。しかし最近のPLAAF組織改編により異機種での訓練機会の道が開けた。一部の部隊では「パイロット自治権」として飛行計画を自ら作り、訓練空域内で「航空戦自由演習」が認められているという。これは進歩のあかしかもしれない。

9. 空中発射型巡航ミサイルを訓練している.
弾道ミサイルは空母キラーといわれるDF-21も含み、第二砲兵部隊 Second Artillery Force に所属し最大限の配慮を受けている。しかしPLAAFも長距離巡航ミサイルを搭載する航空機を有している。
「PLAの接近拒否領域拒絶(A2/AD)戦略への投資の中心は高精度対艦巡航ミサイル (ASCMs) と陸上攻撃巡航ミサイル (LACMs) を大量に生産配備することであると2014年の著作「低視認兵力拡大手段」(著者Dennis M. Gormley, Andrews S. Erickson,Jingdong Yuan)は述べてい
その成否を握るのが空中発射型ミサイル運用の習熟度であり、超音速で低高度飛行するレーダー断面積が小さい巡航ミサイルで敵の防空網や監視体制に揺さぶりをかけることが可能だから、と前掲書は解説している。

10. 長距離・長時間飛行を実施している
ウォールストリートジャーナル紙は2013年11月にPLAAFのパイロットの飛行時間が米国パイロットの飛行時間を上回っていると指摘している。これは一つには米国で予算の強制削減があったからだが、実際に中国パイロットは飛行時間を伸ばしている。問題はその結果中国が何を艇に入れているかだ。
PLAAFによる特異な人材獲得・訓練方法は西側を驚かせてきた。PLAAFは高卒相当の人材を採用し、一部の地方出身者や女性または大卒はパイロット候補から外している。
実践的な訓練は増加している。「海軍航空隊とPLAAFは海上での巡航ミサイル発射訓練を夜間想定含め艦船目標に行っている」と前掲書は述べている。
PLAAFと海軍航空隊はともに拡大拡張していくとの見方が強い。性能面だけでなく、訓練、戦術、組織攻勢さらには価値観での話だ。今後発生する変化が太平洋の均衡にどんな影響を与えるか注意深く観察する必要がある。
「中国の大目標は気づかれないうちに地域内覇権国家になることで既成事実の積み上げを図る」と分析するのは米空軍の戦略立案計画部門のアナリスト、カール・D・レーバーグCarl D. Rehbergである。
中国指導部も自国経済の安定度は国際制度と絡み合っていることを理解しつつある。これは中国指導部には「未知の分野」であるとされ、「中国の歴史上、ここまで国際制度に組み込まれた前例はない」という。
カーライルはPLAの発展を次のように表現している。「これまで行ってきたのは自らのデメリットを正すことで、より良い戦略的な地位に自らをおくことである」と朝日新聞の取材に答えている。「明らかにこの方向に向かっているものの、同時にわれわれも同じ努力をしている」
レベッカ・グラントは空軍力研究の専門家で、研究機関IRIS In-dependent Researchを主宰


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