スキップしてメイン コンテンツに移動

集団的自衛権、その先にある課題を米海軍協会はこう伝えています


集団的自衛権をめぐり、日本国民は日本だけが安全であればよいという価値観の変換を求められている現実、これまでの「常識」が常識ではなかったという事実に直面せざるを得ず、とまどっているのではないでしょうか。フィクションの世界から現実に目を開かざるを得ない事態にあるんでしょうね;これは「開国」を迫られた時代や「国体護持」が維持できなくなった時と同じ状況でしょうね。思考変換が求められているともいえます。米海軍協会は早速以下の観測記事を掲載していますのでご紹介します。

Japanese Government Recommends Major Defense Policy Change

USNI News, By: Kyle Mizokami
Published: May 15, 2014 12:21 PM
Updated: May 15, 2014 12:28 PM

有識者会議から防衛政策の大幅変更の提言が安倍晋三首相に本日提出された。中国、北朝鮮との緊張の高まりを背景に有識会議は憲法解釈の見直しで集団的自衛権の行使を提言をしている。

これは自衛隊創設以来最大の防衛政策の転換になり、日本軍が米国など親密な関係の同盟国を防衛することが可能となる。この変更は日本にとって正常な防衛安全保障政策への道を開くものになる。

「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は日本も集団的自衛権の行使に踏み切るべきと提言しており、同盟国防衛に手を貸すべきだとする。「信頼できる諸国とともに対処した方が一国の安全は確実に確保でき、ともに助け合うことができる」と報告書は記述している。「集団的自衛権行使を可能とすることで信頼に足る各国との関係は強固となり、抑止力の増強で紛争を事前に防ぐことにつながる」

ただし提言は正式な政策ではない。変更を公式に実施するためには安倍首相は内閣の同意のもと、安全保障関連法案を国会で可決する必要がある。

その背景

日本国憲法はアメリカ人法律専門家集団が原案作成し、1947年に成立した。その第9条は以下の通り。
「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

第二次世界大戦終結直後の日本は一切の軍事力を保有せず、連合国占領軍による防衛に完全に依存していた。しかし朝鮮戦争勃発により駐留米軍が日本国内から戦場に移動し、日本は無防備状態になったので、準軍事組織として警察予備隊が75千人規模で組織された。その後規模は11万人に拡大し、海上警備隊が創設されている。

1954年に陸海空の自衛隊が創設され、日本政府は憲法が禁止する「陸海空軍」とは従来の概念での攻撃防衛能力を有する軍事組織であり、自衛権は憲法も認めているとの解釈に立った。
.
その結果として自衛隊は世界で初めて攻撃能力を有さない軍事組織になった。自衛隊は現在でも純粋な攻撃戦術は実施せず、攻撃手段としての爆撃機、航空母艦、弾道ミサイルの保有は禁じられている。自衛隊の平時における弾薬在庫水準は世界平均を下回る。

集団的自衛権を認めないとは

日本政府は自衛権は認める一方、集団的自衛権は否定してきた。各国政府の大多数は国連も含め国家の権利として集団的自衛を認めているが、日本はかたくなに自衛の枠を超えることを恐れ、あるいは攻撃的性格を有する軍事紛争に巻き込まれる可能性を理由として否定してきた。自衛隊は日本に対する脅威にのみ対応でき、他国への脅威には対応できない。1960年の日米安全保障条約の成立でアメリカは日本を外敵から防衛する義務を有している。しかし集団手自衛権の否定により日本はアメリカを逆に援助できない。

この例外は日本が米海軍艦船を日本周辺で防衛する事態に前向きであることだ。オークランド大で日本の安全保障政策を研究するコーリー・ウォレスCorey WallaceはUSNI Newsに「もし米艦が日本近隣で作戦行動しているか、日本の1,000海里以内の海上交通路で作戦行動していると日本の防衛に直接あるいは間接的に関与しているとみなされ、米海軍が海自と共同作戦に従事していよう関係なく、日本政府はその状況で米海軍艦船が攻撃を受ければ日本の自衛権を行使するだろう」と話す。「米艦船への攻撃は日本に対する切迫かつ不法な侵略行為と日本政府がみなす」

今回提案されている変更内容とは

ただし自衛隊にはそのような事態に対応する能力に限界があり、対応するにも法的根拠が必要だ。集団的自衛権の見直しが浮上した背景には北朝鮮が弾道ミサイルを米本土を狙う軌道に打ち上げるシナリオがある。現行法では自衛隊はこの場合ミサイルを迎撃できない。

提案中の自衛隊交戦規則の改正では三つの条件が会わないと集団的自衛行為がとれないとされる。攻撃の対象国が日本と密接な関係にあること、該当国が日本に支援をもとめてくること、さらにその場合に日本が支援を拒否すれば日本の立場が大きく損なわれることである。この条件が合えば、次に以下の厳密な手順を踏むことになる。第一に総理大臣が日本の安全保障への危険があると認識すること。次に国会決議で事前承認すること。最後に攻撃対象の同盟国へ援助に駆け付ける場合の途中通過国すべての同意をとりつけることである。

不確定要素

日本国内の保守派は長年にわたり防衛方針の変更を求めてきたが、一般国民の反対により大胆な実施ははばかられてきた。しかし尖閣諸島をめぐる中国の脅威、北朝鮮の核・ミサイルの脅威によりこの問題が再浮上してきた格好だ。読売新聞の世論調査では日本国民の71%が集団的自衛権を承認している。

そこで方針転換の機運がたかまってきたことで安倍首相は内閣に全員一致での採択を迫るだろう。自民党閣僚はいいとしても、連立政権を組む公明党出身の大臣一名がいる。安倍は反対を表明する閣僚は内閣から外す傾向があるが、連立を崩すリスクは当然考慮するだろう。

内閣が方針転換を承認したのちに合計18個の関連法案として国会に上程される。安倍首相は経済テコ入れにより高い人気が背景になるが、経済実績が低迷すれば、あるいは連立を組む公明党が反対すれば法案審議が進まない可能性がある。


米軍部隊への影響は

.
日本による集団的自衛権の見直しは当然日本周辺の米軍部隊
にも影響を及ぼす。米本土防衛に日本が支援することになれば、弾道ミサイル防衛で両国間協力はこれまで以上に強固になろう。現在両国はイージスレーダーシステムとSM-3迎撃ミサイルを装備した巡洋艦、駆逐艦6隻ほど日本周辺に展開していいるが、共同指揮命令機能により反応を短縮化し、無駄をはぶくことができる。

両国の陸海空部隊は共同訓練こそ実施しているが、運用は自国の指揮命令のもと別個になっている。戦術、兵站で高度の共通度を維持しているが、日本の法体系ではこれ以上の協力はできないことになっている。

そこで集団自衛として日本あるいは米国領土の防衛を目的として合同指揮命令系統を両国が整備することが許されよう。その根拠となる法的枠組みが早期に実現する可能性が高まっている。

ただし集団的自衛問題は安全保障関連の改革の一つにすぎない。安倍首相と自民党はその実施に前向きだ。最終目的は先制攻撃の実施能力及び自衛隊に在外日本国民の保護を認めることで自衛隊を軍事力に「正常進化」させ他国の国軍と同様に行動できるようにするのことである。今回の集団的自衛権を安倍首相が実現させれば、さらに追加的な変更が実現する可能性が出るだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カイル・ミゾカミは日本含むアジア関連の国防安全保障記者。Japan Security Watch, Asia Security Watch、War Is Boringの各ブログを運営。またMedium, The Atlantic.com, Salon, The Japan Times, The Diplomatの各誌(紙)に寄稿。

コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ