これまでも取り上げてきましたが、海軍のEA-18Gは当面唯一の電子戦機としてその役割に空軍も期待しているようでこのままいけば、追加調達もすんなりと議会を通りそうです。ただ空軍と海軍の見解の相違、さらにボーイングとロッキードの主張にも相当の差があるようで、こんなことで本当に近い将来のA2AD環境への攻撃作戦が実施できるのか不安になってきますね。それにしても日本はこの分野で大きく遅れをとっていると思いませんか。まさかF-35があれば大丈夫と思っているのでしょうか。
Stealth Vs. Electronic Attack
USNI News
By: Dave Majumdar
Published: April 21, 2014 6:19 AM
Updated: April 21, 2014 8:25 AM
F-35CライトニングII、エグリン米空軍基地(フロリダ州)にて、
2013年8月14日、写真 米空軍
- 接近阻止領域(A2AD)へはステルスと電子攻撃能力を組み合わせて対抗すると海軍作戦部長ジョナサン・グリナート大将 Adm. Jonathan Greenertが米海軍協会の年次総会(4月16日、ワシントンDC)で述べている。
- 「ステルスの先を見通すと、ステルス性だけでなく敵の電子電磁発信を制圧する性能のある航空機が必要だ」
- グリナート大将が言わんとするのは電子攻撃だけでは米軍は将来の敵の防空網を突破できないということで、同じ意見が軍と業界筋から出ている。
- 同大将は「将来の米軍がすべてを制圧できるか疑わしいが、次世代ジャマーは将来の侵攻・撤収時に威力を発揮するだろう」と発言。
- グリナート大将の発言は大方でボーイングが先週行った海軍連盟での展示内容を反映している。その席上で同社副社長マイク・ギボンス Mike Gibbons (F/A-18E/FおよびEA-18G担当)がステルス機には電子攻撃機の支援が必要と発言している。
- 「侵入時には一つの周波数帯へ対抗するだけでは不十分です。他の周波数帯で探知される可能性があるからであり、ここがカギです」とギボンスは説明。「グラウラーは全周波数に対応できるセンサーとジャミング能力を備えた唯一の機種で、攻撃機支援が可能です」
- ボーイングのプレゼンテーションでは低探知性技術は「なま物」だとし、敵方が高性能低周波レーダーや信号処理で進展をとげれば有効性は減じると主張。
Boeing Presentation
- 「ステルスとは『探知されるのを遅らせる』にすぎず、この遅れは短くなってきています。地対空ミサイル用レーダーが使用する周波数が低くなっており、米国のステルス機は効果が減ってきています」とボーイングでF/A-18E/F およびEA-18Gの性能改修を統括するマーク・ギャモン Mark Gammon, Boeing’s F/A-18E/F and EA-18G program manager for advanced capabilitiesは説明している。「VHFを使う早期警戒レーダーでステルス性が下がります。各レーダーはSAM管制用レーダーとネットワーク化されており、探知が容易になっています。ステルスだけでは対抗できないIRST(赤外線探知追跡)システムが登場しています。」
- このボーイングの見解を軍関係者にUSNI Newsから紹介したところ、完全に同意したのは一部で、反発も一部、ほとんどは微妙な反応だった。
- 「ボーイングはF-35を全面攻撃しているのだろう。グラウラーの利点は強調しつつ、その内容は誤っていないが、長所の裏にある代償には目をつむっている。グラウラーと低視認性機体はお互いに補完するのは事実だ」と米空軍関係者は語る。
- ロッキード・マーティン社はF-35は強固に防衛された空域にいかなる支援なしに侵入できると主張している。
- 「政府契約により同機は脅威度が高い接近拒否環境に侵入が可能になることになっており、自律的にミッションを実施し帰還することが可能」とロッキードでF-35の国内向け事業開発担当役員エリック・ヴァン・カンプ Eric Van Campは説明する。「飛行試験結果からも同機はこの契約の要求水準に合致してることがはっきりとわかる」
電子戦飛行隊(VAQ)141「シャドウホークス」のEA-18Gグラウラーが米海軍の前方配備航空母艦USSジョージ・ワシントン(CVN-73)で拘束着陸を行おうとしている。写真米海軍
- 戦術機サイズのステルス航空機に高周波帯(C,XやKuバンドなど)に対抗する必要があるのはその通りだが、現実には別の手段で探知・追跡を困難にできる。
- 航空業界、空軍、海軍関係者は同様にレーダー周波数波形が一定の想定範囲を超え共鳴効果resonant effectを発生させれば低視認性機体の「段階的変更」が必要になると認めている。共鳴が発生するのは航空機の尾翼などが特定の周波数の波長の8倍を超える場合である。
- 小型ステルス機にはレーダー吸収剤を2フィート以上塗布できる余裕がないので表面の各部分はそれぞれ特定の周波数に特化した対応をすることでしのいでいるのが現状だ。
- 低周波数帯(SやLバンド)で運用するレーダーなら民間航空管制用でもステルス機をある程度探知追尾することが可能になる。
- ただし大型ステルス機の例としてノースロップ・グラマンB-2スピリットでは共鳴効果を生む特徴が少なく低周波レーダーにもF-35より有効に対処できる。
- だが低周波レーダーではペンタゴンが「軍用仕様」“weapons quality” と呼ぶミサイルを目標まで誘導する能力がないし、「航空管制レーダーで低視認性機が発見できたとしても、火器管制システムがなければ撃墜は不可能」と空軍関係者は言う。
- 一方でロシア、中国他が高性能UHF、VHF帯を利用した早期警戒レーダーを開発中で、これまでより長い波長を使い他のセンサーを追尾させ迎撃戦闘機にある程度の敵位置情報を与えることが可能となる。
- とはいうもののVHFやUHF帯レーダーにも問題があり、米海軍関係者がUSNI Newsに語ってくれたのは波長が長くなるとレーダー解像セルも大きくなることだ。つまり兵器を誘導させるだけの正確な追尾ができない。
- ただ空軍、海軍、海兵隊関係者が異口同音に言うのはF-35やF-22のような航空機は低視認性だけでは生存はできないことだ。
- ある空軍関係者の説明ではステルスと電子攻撃は常にシナジー関係にあり、信号体雑音比signal to noise ratioで探知されるからだという。低視認性で信号を減らせるが、電子攻撃で雑音が増える。「A2/AD対抗策ではこの両方で解決を迫られる」というのだ。
- 空軍と海兵隊関係者からはボーイングの指摘した、F-35にはXバンドによる電子攻撃しかなく、その有効範囲が前方にある、との指摘に異議を唱えている。「後方有効範囲は現状のどの機体でも装備されているかいないか明かせない。ただしパッケージで実現している。その場合はEA-18が必要だ」と空軍関係者は指摘する。
- しかしながら空軍・海兵隊関係者はグラウラーは今後出現する脅威対象に有効ではなくなると言い、F-35の電子戦能力向上案があるという。
- 「グラウラー自体は信頼できる機体だが、高度のA2/AD地帯では対応が限定される」と空軍関係者は言う。「現時点で最新鋭としても今後予想される環境ではジャミング機体として適当なのかわからない」
- にもかかわらず、複数の空軍関係者がグラウラー追加調達の拡大案を支持する。「グラウラーは有益な機体で機数をふやすべきだし、高性能のIADS(統合防空システム)に対する攻撃パッケージの中で重要な部分となる。ボーイングのいうような単独での有効性はない」
- だが、そういう関係者もグラウラーは共同編成部隊で相互運用性が完璧でないと指摘している。「グラウラーで未解決なのは攻撃用機材との間の問題だ。」という。
- 一方で「ボーイングにとっては共用作戦運用が限定される機体を広めることで利点が生まれる。SEAD/DEAD(敵防空体制制圧・敵防空体制破壊)ミッション用の他社製機体とうまく連携できない機体だが、戦闘実施にはあまり意味がない」
- 業界筋もグラウラーには共同作戦実施で問題があることを認める。とくに空軍機材との共同作戦でだが、グラウラーだけの問題ではない。たとえばロッキードF-22が編隊中データリンク (IFDL)を使えるのは他のF-22との間だけだし、F-35は共用打撃戦闘機同士でしか使えない多機能高性能データリンク(MADL)がある。「これはエアシーバトル室が解決を迫られている大きな問題の一部にすぎない」と業界筋は解説する。
- ボーイングのギャモンはEA-18Gの相互作戦運用能力を弁護している。「グラウラーにはリンク16を装備しており、F/A-18スーパーホーネット、F-35, E-2D、F-15、F-16他爆撃機各種と互換性を確保しています。グラウラーは脅威から距離を置くスタンドオフが可能なのが利点で、そのままでEM(電子電磁)マップを作成し、リンク16経由で兵器照準を支援します。さらにTTNT(戦術目標捕捉ネットワーク技術)がここに加わります。」
- 業界筋からはF-35へリンク16搭載案があるが、同機では脅威度が高い空域では全方向性を持つ同リンクは使用できない、なぜなら同機の位置をさらしてしまうからだと説明があった。「F-35のように自機のリンク16で発信を避けたい機材はグラウラーからのリンク16発信を受信して、その指示で兵装を使うことになる」という。
- 空軍関係者もEA-18Gの追加調達は必要だと認める。「そもそも初回調達機数が少なかった」と空軍関係者は語る。「同機には同じ重量の黄金の価値があり、ES(電子電磁スペクトラム)による状況把握、EA(電子攻撃)部隊両面で多大な貢献が可能。しかしLIMFAC(限定条件)は常に空母運用による飛行サイクル回数がついてまわることだ」
Boeing Presentation.
- 海軍関係者からは空母運用によりサイクルが限定されるのはグラウラーにAGM-88E高性能対放射線誘導ミサイル(AARGM)あるいは高速対放射線ミサイル(HARM)のようなミサイル発射任務を想定する場合だけだという。同関係者によれば空中給油の実施で海軍の戦闘機が6時間以上耐空するのは普通だという。「もしグラウラーがHARMを全弾発射して再装填するため着艦するとサイクル回数を考慮しなくてはいけないが、現実的にはスタンドオフでジャミングにあたるはずで、HARMを発射するのは防御の想定だけです。」 つまり、着陸し、燃料補給し、乗員を交代させ、点検修理を一定の間隔で実施するのはどの機体にも必要なことではないか、というのである。
- ボーイングも自社グラウラーを対空あるいは攻撃任務に投入する可能性が説明している。ギャモンもEA-18Gをそのような任務に使用するのは同社のこれまでの説明とは異なるが、展示では上掲の図を使い、「対空任務ではグラウラーはESM(電子支援装備)を使い、味方戦闘機の敵捕捉を支援し、敵の識別を行うのがもっと重要だ。グラウラーはこれをスタンドオフ位置から実施しても、十分なSA(状況把握)とID(識別)が可能だ」
- ギャモンからはEA-18Gを対地攻撃に投入した場合の説明もあった。「グラウラーは敵の戦闘隊形をEMで把握し、敵の発信源を識別し、司令塔の役割をEMで行い、どれをジャム、攻撃あるいは回避する対象とするか決定する。グラウラーはAARGMなどの兵器を発信源に発射するほか、味方攻撃機に交戦情報を提供する」
- 海軍関係者はグラウラーを戦闘指揮統制機材として使用する想定だが、同機を直接攻撃任務につかせるとか制空任務にに投入する考えはないという。
- 業界筋もグラウラーを制空戦闘機あるいは攻撃戦闘機として投入する可能性はないが、投入されれば重要な役目は果たせるとみる。「グラウラーでJDAM(共用直接攻撃爆弾)を投下することはないが、攻撃任務の他の戦闘機に目標まで誘導させることで支援は可能だろう」
- グラウラー追加調達には幅広い支援があるが、それでもさらに進歩したA2/ADの脅威に単独で解決を提供することにはならない。
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- 「ステルスには欠点もあるが、第四世代機でも新型ジャミングポッドを搭載すれば将来のIADSにも実用的な解決策になる。米空軍はポッドを大量導入するのはまちがいない」と米空軍関係者は言う。■
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